#03|ヒグマ

#03|ヒグマ

北の大地「北海道」の森には、
多くのヒグマが生息する。

「鱒」を追うアングラーが、
絶対に出逢いたくない存在だ。

ところで、これまで私は、
フィールドで6回、ヒグマと遭遇している。

そのうち2回は、とても危険な状況だった。

十勝川支流の戸蔦別川で起こった事件は、
もっとも恐ろしかった。

それは、満足のいくニジマスと出逢い、
足取り軽く、河畔に駐車していた車まで
徒歩で戻る途中のことだった。

車まで、もうあと10mというところで、
突然、川の方から飛び出してきた黒い影が、
私と車の間を右から左に横切り、
草むらに身を潜めたのだ。

私は、ロッドを置き、とっさに身構えた。

そこに、川沿いの農道を、農作業車が
“ドンドンッ”と大きな音を立てて走ってきた。

周囲は畑。近くのAコープから
1kmも離れていない場所だから、
よくある日常の光景だ。

農作業車の大きな音に驚いたか、
黒い影は草むらを飛び出し、
今度は左から右に私と車の間を横切って
川の方へ消えていった。

九死に一生とは、このこと。

その晩、まるでゴムまりが弾むような
爆発的なフットワークを繰り出し、
ものすごいスピードで川の方へ消えてゆく
ヒグマの後ろ姿が夢に出てきた。

ヒグマの走るスピードは、尋常でなく早い。

それを目の前で見せつけられて、
人間が走って逃げ切れるはずがないことを
この時のヒグマは私に教えてくれた。

だから、私がいま生きているのは、
このヒグマのおかげかもしれないと
ふと思うときがある。

屈斜路湖で出逢ったヒグマは、
とにかくデカかった。

そこは、林道側の奥の奥。

車を停め、
オーディオのボリュームを最大にして、
ドアを開けたまま、ウェーダーを履く。

冗談にもほどがあるというものだが、
童謡「森のくまさん」を大声で歌いながら、
目的にインレットに向かった。

あと15mほどで、
湖岸に出るところまできた。

ところが、けもの道の先に、
いつもは見えるはずの湖面が見えない。

その代わり、朝日に照らされ金色に輝く
大きな頭が左右に大きく動いている。

その場所は、自分が立とうとしていた場所だ。

確か、前の日の夕方その場所に立った時、
たくさんのヒメマスが産卵のため、
インレットを遡上していたっけな・・・

事態は、すぐに悟った。

インレットの水音と
ヒメマスの遡上音にかき消され、
奴に「森のくまさん」は聞こえなかったのだ。

幸い、奴に私の存在を気づかれていない。

できるだけ、音を立てないように
後ずさりして距離を取った。

そこから車までの、
たった2分ばかりの逃避行は、
私にとって、本当に長い時間だった。

タックルを荷台に放り込んで、
逃げるようにその場から走り去った
瞬間のことを、今でも思い出す。

それは、2つ目の命を拾った瞬間でも
あったのだから、無理もない。

それにしてもデカい頭だった。

クマ牧場でも、あんな奴は見たことがない。

あれじゃ、戦っても勝ち目はないだろう。

ヒグマをむやみに恐れることはないが、
やはり、出逢わないように
気を付けなければならない。

・ 彼らの領域にむやみに足を踏み入れない。
・ デントコーン畑には、近寄らない。

それだけでも、6回の遭遇のうち、
5回は回避できたと思う。

どうせ出逢うなら、
「羆」じゃなくて「鱒」がいい。

皆さんも、どうかお気を付けて
釣りを楽しみましょう!

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