#08|トレブルフックは絶対悪か

私は、必要に応じて
トレブルフックも躊躇なく使用する。

そんなくだりから文章が始まると
なんだかちょっと挑戦的だが、
ルアーフックの選択について、
ひとつの問題提起をしてみたい。

昨今のトラウトルアー
フィッシングシーンにおける
シングル・バーブレスフックの
普及に伴って、
トレブルフックの使用に対して、
厳しい視線が注がれる場面が
増えてきたように感じる。

「シングルフック」が是であり、
「トレブルフック」は否。

「バーブレスフック」が是であり、
「バーブ付きフック」は否。

そんな論調が大勢を占めるようになった
背景や論拠について少し考察し、
「トレブルフックは絶対悪か?」
という命題に対する
私なりの見解を書き綴ってみたい。

キャッチ&リリースを
前提とした釣りにおいて、
シングル・バーブレスフックは
圧倒的に魚に優しい。

そんな決まり文句をよく耳にするけれど、
本当にそのとおりなのだろうか。

シングル・バーブレスフックの普及は
管理釣り場ブームの到来と
無縁ではないだろう。

昨今、管理釣り場においては
キャッチ&リリースが主流となっている。

魚はたくさん放流されているから、
多少バラシが増えても気にならないし、
何回も釣られている魚が
健全な状態を保っていたら、
アングラーの側も当然うれしい。

もちろん、運営側にも
歩留まりが良くなることであったり、
死んだ魚の撤去の手間も減るなどの
大きなメリットがある。

こうした背景もあって、
魚に優しいエリアづくりを目指すための
レギュレーションのひとつとして
シングル・バーブレスフックは
急速に普及した。

こうした管理釣り場も含め、
確かに、私の経験上、
シングル・バーブレスフックを
使用することによって、
魚への負担が軽減されると
実感することは多い。

自然のフィールドで言えば、
例えば、然別湖。

ここでは、レギュレーションとして、
シングル・バーブレスフックの使用を
義務づけているわけであるが、
もし、トレブルフックや
バーブ付きフックの使用を認めるとすれば、
口が極端にやわらかいという
「ミヤベイワナ」の特徴に鑑みれば、
個体への負担は、
他のトラウト以上に
深刻になることが容易に予想される。

そうなれば、苦労してキャッチした
ミヤベイワナが大きな傷を負っていて、
がっかりするアングラーが増えたり、
最悪の場合、ミヤベイワナの個体数減少に
つながるリスクもあるのだから、
然別湖において、
シングル・バーブレスフックの使用を
義務づけるという判断は、
極めて合理的と言えるだろう。

このように、
「シングル・バーブレス」という手段が
有効に作用するシーンが多いという理解に、
異論は全くない。

ところが、一方で、
シングルフックを使用することで
魚への負担が増すと感じる場面もある。

それは、私がもっとも時間を割くことが多い
イトウ釣りのシーンだ。

イトウは、その習性から、
ベイトを吸い込むように捕食することが多く、
結果として、ヒット時に
ルアーを呑みこんでしまうことも少なくない。

イトウ釣りにシングルフックを使用する場合、
ほとんどのケースで、魚のパワーを考慮して、
かなり太軸のフックを
選択することになるだろう。

そうすると、
引っ掛かりの少ないシングルフックは、
バイト時にイトウの口元をすり抜け、
ルアーごと呑み込まれて、
喉の奥にフッキングすることが多発する。

喉の奥に軸の太いフックが刺さると、
バーブがついていようがいまいが、
かなりの確率で
鰓などの急所を直撃して大量出血し、
結果的にイトウを死に至らしめてしまう。

そこで、トレブルフックを使用することで、
1点にかかる力が分散するから、
フックの軸を細くすることが可能になるし、
表面積が大きいから、
イトウのバイト時に、
口の中の浅いところに
フッキングするケースが多くなり、
一撃でイトウを死に至らせてしまうような
最悪なフッキングを減らすことができるのだ。

特にプラグ系の
針が2カ所ついているルアーであれば、
より一層、効果はてきめんとなる。

さらに優位性が高いのは、
イトウはその特徴として
扁平な顔の骨格をしているため、
ルアーを丸呑みしないケースでは、
いわゆる「ハモニカ喰い」になることが多い。

したがって、
魚がミノー系ルアーのベリーフックに
バイトした時に起こりがちな、
ファイト中にリアフックが
体側にダメージを与えてしまうというような
ネガティブな現象が起こりにくくなる。

このように、私の経験上、
少なくともイトウ釣りのシーンにおいては、
トレブルフックを使用した方が
魚に与えるダメージを
低減できると確信している。

もちろん、理論的にというだけでなく、
実例もある。

先日、天塩川でヒットした
イトウのうちの1尾は、
ミノーを尾の方から
ほとんど丸呑みしようとしていたが、
かろうじてベリーのフックが
歯の近くに引っ掛かり、
完全に呑み込まれることを阻止していた。

その状態であれば、
ロングプライヤーを使って
奥に刺さったリアフックを丁寧に外すことで
魚に致命的なダメージを与えずに済む。

実際、その個体に、
いっさいの流血をさせることなく、
リリースすることができた。

一度、大量に出血した魚は、
仮に、リリースしたときには
勢いよく泳いでいったとしても
そう時間が経たないうちに
水中で息絶えてしまうことを
多くのアングラーは知っている。

もちろん私も、
そんな失敗を何度もしてきた。

だからこそ、実情を知ることなく
シングル・バーブレス以外を
すべて否とするような最近の論調には
賛同できない自分がいる。

「シングル・バーブレス」は、
魚に与えるダメージを軽減するための
有効な手段のひとつではあるけれど、
決して、万能な方法ではない。

できれば、いずれ
そんな理解が広まることを期待したい。

私が、「シングル・バーブレス」が
普遍的な価値とされることに
強い違和感を感じるのには
もうひとつ、理由がある。

食べもしないくせに、
魚に針を掛けて釣りあげるなんて行為は野蛮だ!

釣りをしない一般の人の中には、
現実に、そのような声が
少なくないということ。

当然のことながら、
こうした声にもしっかりと耳を傾け、
少しでも理解を促そうとするなら、
「シングル・バーブレスだから」
などという説明は、相手から見れば
ただの「言い訳」にしか聞こえず、
一切、説得力がないことは明らかだ。

釣りをする以上は、
どんなフックを使おうが、
魚にダメージを与えているのは事実。

まずはそのことを認めつつ、
どれだけ魚のダメージを軽減できるかについて
予断を排して、試行錯誤していくことが
私を含め、キャッチ&リリースを志向する
アングラーの責務なんじゃないかと思う。

その積み重ねを経て、
「魚に関心を持つこと」の価値を
キャッチ&リリースを志向する
アングラーに対して批判的な人たちに説く。

そうすることで、
「無関心であることこそ、魚たちにとって
もっとも不幸なことである」という
私たちアングラーの内に秘めた「言い分」も
少しは市民権を得るではないか。

フックを適材適所で使い分け、
本当の意味で、
魚に優しいキャッチ&リリースを
実現しようという発想は、
釣りの本質にもかかわってくる
とても重要なアプローチであると
私は考えている。

釣りをしない人も巻き込んだ議論も
念頭におくとするならば、
一部のアングラーが、
シングル・バーブレス論を
絶対的正義と言わんばかりに振りかざして、
異なる考え方を持つアングラーを
全面的に否定することに
どれだけの意味があるのか
おのずと答えは見えてくるはずだ。

今回は、ひとつの問題提起の意味も込めて、
ちょっとヒリヒリする話題について、
自分なりに戯言を並べてみた。

さて、ここを訪れてくださった皆さんは
どのように考えるのだろうか・・・。

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