ufmウエダ。
キャリアの長いトラウトアングラーなら
知らない人はいないであろう
今はなき、伝説のロッドメーカーである。
私は、ufmウエダのロッドを
今でも愛用している。
会社解散から5年以上が経過した
今日のフィールドにおいても
ufmウエダのロッドを軽快に操るアングラーに
出会うことも少なくない。
それだけ、ufmウエダのロッドが
多くのアングラーに愛されている証拠である。
では、多くのファンを抱えていながら、
なぜ、ufmウエダは、その長い歴史に
幕を下ろすことになってしまったのだろうか。
ちょっとヒリヒリするところもあるが、
その理由を私なりに考察するとともに、
ufmウエダだけにとどまらない
釣り業界全体の問題として
少し掘り下げてみたい。
私が、今でもufmウエダのロッドを
愛用している理由は、
意のままに操れる操作性の良さと
ファイト時に魚との一体感を
味わえるところにある。
一般的に、ufmウエダのロッドは、
エキスパート向けに特化されたモデルとして
評価されることも多かったが、
初期に発売されたモデルの多くは、
広いスイートスポットを内包した
ビギナーにもとびきり優しい
セッティングであったことは
意外と知られていないのかもしれない。
ufmウエダのロッドの素晴らしさは、
なにより、アングラー目線で
商品開発が行われていたことに
根源があるのだと思う。
アングラーがロッドに合わせるのではなく、
アングラーの個性に順応して、
ロッドが機能してくれる。
一般社会では常識的な
“マーケット・イン”の視点が
そこには間違いなく存在したのである。
ところが、晩年のufmウエダから
発売されたロッドからは、
ロッドをアングラーに順応させるという理念は
明らかに、抜け落ちて行っていた。
あえて率直に言えば、
むしろ、アングラーが
ロッドに合わせればいいと言わんばかりの
やや傲慢なものづくりへと
移行していったようにも私の目には映った。
もちろん、ufmウエダが開発するロッドの
クオリティが下がったわけではなかった。
特定のタクティクスを駆使する
アングラーにとっては、
より洗練されたモデルに進化し続けていると
感じられたのではなかろうか。
だから、ひとつの方向性として、
コアなアングラーをターゲットに
ロッドの開発を進めること自体は、
全く否定されるものではない。
ただ、それがほとんど個人の趣味に
近い領域まで達してしまえば、
それはもう、マーケット不在の独りよがりの
ビジネスでしかなくなってしまうことに
会社として気づけなかったのが
なんとも残念だ。
何も、ufmウエダに限ったことではないが、
ロッド製作の方向性が、
特定の著名なアングラーのスタイルに
極端に引っ張られる形となったところに
問題の本質があるのは間違いないだろう。
誤解のないよう付け加えると、
私は、個々のアングラーのスタイルを
否定するつもりは毛頭ないし、
むしろ、多様であることにこそ
大きな価値があると思っている。
だから、趣味やオーダーメイドで
ロッドを製作するなら、、
どんなロッドを設計しようが全く自由だ。
しかしながら、
一般の市場を見据えた事業として
ロッド製作を考えるのなら、
話は全く別である。
ロッド製作の現場で、
特定のアングラーを過度に
リスペクトしたところを原点とすると、
完成したロッドのスイートスポットは
どんどん狭くなる方向へ
シフトしてしまうのである。
結果として、もはやそこに、
多様なアングラーのニーズに応える
ものづくりの姿はない。
そこにあるのは、
特定の著名なアングラーを神聖化して
その人を崇拝する一部の
一般アングラーのみを対象とした、
ほぼ“プロダクト・アウト型”と言っていい
ものづくりの姿でしかないのだ。
こんなふうに、最近、
特定の著名なアングラーのスタイルに
一般のアングラーを引っ張り込んで
囲い込もうとするビジネスのあり方が、
業界の中で標準化しすぎてはいないだろうか。
そのやり方は、
釣り文化の多様化を阻害する方向に
作用するに違いない。
個々のアングラーが、
それぞれのスタイルで釣りを楽しめるような
商品づくりに努めてもらえたら、
もっともっと、釣り文化のすそ野は
広がっていくのだと思う。
何より、私たち一般のアングラーは、
道具を企画・開発、そして製作してくれる
ものづくり企業がいなかったら、
大好きな釣りをすることもままならない。
だから、非建設的な
批判をするだけでもダメだし、
理想とはほど遠い現状を
甘んじて受け入れているだけでもダメだ。
これからの釣り業界と、
釣り具を製造するものづくり企業に対する
大きな期待を込めて、
あえて、ここで苦言を呈しておきたい。
ところで、話はufmウエダに戻るが、
私が今でも愛用している
スティンガーラックスと
スーパースティンガーというロッドが、
決して、特定のアングラーに向けて
開発されたものでないことは、
長年愛用していれば、当然わかる。
私は、この2本のロッドに、
自らのフィッシングスタイルを
受け入れてもらいながら
これまでのフィッシングシーンの
ほとんどを共にしてきた。
過度な主張は決してせずに、
必要な時だけ最大限の力を発揮する
本当に頼れる相棒だ。
この2本のロッドなしでは、
数々の記憶に残る美しい鱒たちとの出逢いを
果たすことはできなかっただろう。
そんな実体験があるからこそ、
会社が存在しない今日でも
私はufmウエダを愛しているし、
そこで、当時、ロッドの企画・開発、
そして製作に携わっていた技術者たちを
心から尊敬している。
私は、ufmウエダというロッドメーカーに
かつて根付いていた
多様なアングラーに楽しんでもらえる
ロッド製作という理念を
体現してくれるメーカーが
現れてくれることを願ってやまない。
もしも、そのメーカーで、
かつて、ufmウエダのロッド製作の現場で
活躍されていた技術者の力が
活かされているとすれば、
なお、うれしい。