意外な出逢い

(・・・前回から続く)

移動した先は、
北の大河、天塩川でも
おそらく5本の指には入るであろう
ランが幾重にも連なる圧倒的な地形。

そこは、堰堤と自然地形の違いはあれど、
東北のサクラマスフリークなら
誰もが知っているであろう
赤川三段を彷彿とさせる
広大なポイントを形成している。

道内のフライフィッシャーの中には
JR昆布駅裏の尻別川の流れを
「昆布のスリーセクション」
と呼ぶ人もいると聞く。

もし、その表現を借りるとするなら、
目の前に広がるのは、
「中川のスリーセクション」。

まさに、アングラーを
ドキドキさせてくれる魅力的なランである。

ただ、この秋、
このポイントにエントリーするのは
今回が初めて。

ようやく、
期待の持てる水位となるタイミングと
遠征の日が合致して、
エントリーが叶ったわけだ。

この広大なランを
ファーストセクションから
順に釣り下っていく。

が、期待に反し、
なかなか魚からの反応は得られない。

このあたりは、
釣り方さえアジャストできれば、
魚たちは躊躇なくルアーを追うはず。

なのに、
チェイスすら見えないということは
どうやら「お留守」だったようだ。

セカンドセクションを探り切るまで
およそ1時間30分ほどを要したが、
全く魚からのコンタクトは得られない。

そして、最後のセクションに差し掛かる。

すぐに、小さめではあったが
このポイントに来てはじめての
魚とのコンタクトが訪れる。

時間をかけずランディングに持ち込むと
45cmクラスのアメマスであった。

水温が下がってきたこの時期、
魚たちはひとつのポイントに
固まっていることも多い。

アメマスをそっとリリースして、
すぐにラインチェックを済ませる。

そして、次のキャスト・・・

ピックアップまで
あと1mくらいのところで
ルアーの後ろに魚の影を確認。

瞬時に、8の字を描く
スタンスを取ろうとするのとほぼ同時に、
ロッドが大きく弧を描いた。

首振りはハイピッチで、
ファイト中、水中でギラギラと
小気味よく身を翻しているのが見える。

ファイトの様子から、
イトウでないことはすぐにわかった。

ただ、それにしては
サイズは決して小さくない。

ラインが魚のカラダに巻き付かないように
強引なファイトは避けつつ、
ゆっくりと魚を寄せる。

ランディングしてみると、
ホワイトスポットが美しい
見事な大型のアメマスであった。

ぶっといと長いし、
一応サイズを測ってみると、77cm。

かつて、音別川茶路川で見た
同サイズのアメマスと比べると
太さがまるで違う。

もちろん、産卵後の痩せた魚とではなく、
例年、お盆明けに太平洋側の河川に遡上する
グラマラスなアメマスと比べてである。

確かに、11月中旬の天塩川では
大型のアメマスが良く釣れるのだけれど、
ここまでクオリティの高い
個体に出逢ったのは
たぶん、はじめてかもしれない。

それほど、予期せぬ
本当に意外な出逢いだった。

私にとって、
この時期の天塩川のアメマスは、
魚には失礼だけれど
外道という位置づけでしかなかった。

でも、こんな美しい魚を
外道で片付けてしまうのはもったいない。

イトウが釣れないときは、
本気でアメマスを
狙ってみるのも悪くないな。

このアメマスは、
そんな気持ちにさせてくれる1本であった。

アメマスをそっとリリースした後、
心が完全に緩んでいる自分が
そこにいるのに気がづく。

ここからは、シフトチェンジして
のんびりと釣り下ることにする。

肩の力が抜けたとき、
魚からの反応が劇的に良くなることが
しばしばある。

「殺気が伝わると魚は釣れない」とは
よく言ったもの。

精神論なんかじゃなくて、
自分のメンタルがルアーの動きに、
はっきりと伝わっていることは
十分自覚している。

だから、こんな時は、
すぐに次のバイトが訪れる。

ロッドを握る右手に伝わる感覚は、
先ほどのアメマスとは
ちょっと様子が違っていた。

でも、トルクはそれほど大きくない。

ゆっくりとランディングに持ち込むと
60cm台半ばのイトウであった。

サイズアップとはいかなかったけれど、
うれしい1尾であることには違いない。

この後、45~60cmのアメマスを
4尾ほど追加して、この日の釣りは終了。

いつものとおり、
しれ~っとした顔をして仕事に向かった。

翌日は、あいにくの悪天候。

寒冷前線の接近で、
30分くらいしか釣りはできなかった。

それでも、うれしいことに
60cm弱と小型ではあったけれど
何とかイトウに出逢うことはできた。

これ以上、リスクを冒してまで
天塩川で粘る状況にはないと判断。

そっとイトウをリリースして
迫り来る黒い雲から逃げるように退散し
帰路に就いた。

週間予報では、道北地方には
雪のマークがいくつか並んでいる。

ついに今年も、
本格的な冬がやってくるようだ。

今年はあと何回、
天塩川へのエントリーを
許されるのだろうか。

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