海からの贈りもの

結局、せっかく道北にいるのだからと
気持ちをなんとか奮い立たせ、
目覚まし時計を
2:40にセットすることにした。

そう、道北の朝は早いのだ。

しばらく車を走らせて、
フィールドに到着。

朝マヅメなら少しはマシかと
わずかばかりの期待を抱きつつ
フィールドの様子をのぞき込んでみる。

けれども、そのわずかばかり期待は
瞬時に打ち砕かれた。

フィールドに
ドキドキするような"何か"を
感じることができなかったのだ。

それでも、せっかく早起きしたのだからと、
ルアーをキャストしてみる。

ぽっちゃーん・・・

しーん・・・

そんなことの繰り返し。

2時間ほど粘ってみたけれど、
事件など起こるはずもなく、あえなく撃沈。

気持ちも萎え、
あくびがどうにも止まらなくなったので、
少しだけ、仮眠を取ることにした。

目が覚めた時、あたりは
すっかり普通の朝の光景になっていた。

陽の光を浴びて、
イタドリたちはすくすくと成長。

まだ6月のはじめだというのに、
もう私の身長よりも
遥かに高いところまで
背を伸ばしている。

東風の吹いていたこの日、
利尻富士には低い霧がかかっていた。

もう少し気象条件が違っていたら、
天空の城ラピュタみたいな景色が
広がっていた思う。

年に何回もない景色に出逢える
チャンスではあったはずだけれど、
この日はニアミスで終わってしまった。

あとは、ドライブして帰るだけ・・・

だったけれど、
次にここに立てるのは、
たぶん秋になってしまう。

ならば、最後に少しだけ
めぼしいスポットを撃ってから帰ろうと
軽い気持ちでロッドを握ることにした。

フィールドの状況は、相変わらずの厳しさ。

遡ること2週間ほど前
フィールドの状況が激変したことを
つぶさに感じ取って、
イトウとの出逢いにこぎつけた時とは
状況が明らかに異なる。

早朝からの変化と言えば、
ちょうど上げ潮のタイミングとなって、
水温の低い海水が
供給され始めたことくらいだっただろうか。

目に見えて
生命感が増した感じもなかったので、
春のフィールドの景色を目に焼き付けながら、
ほぼノープレッシャーな精神状態で
ポイントを移動しながら、
キャスト繰り返していく。

およそ釣り日和とは言えない
好天ではあったものの、
透き通るような青い空の下、
のんびりとルアーをキャストするのは、
それはそれで気分がイイものだ。

ブッウォ~ッン!

ワッシャーン、ワッシャーン!

それは、突然も突然。

特段の緊張感もなく放ったルアーが
足元のカケアガリから
ふわっと浮かび上がる瞬間の出来事だった。

大型のイトウでないことは
すぐにわかったけれど、
このタイミングでヒットするなんて、
まさに感無量というほかない。

たった1本のラインでつながった
イトウとのファイト。

時間にして、わずか2分足らずの
束の間の出来事ではあったけれど、
何とも言えない充実した時間が流れてゆく。

ランディングしたイトウは、
春のアベレージに近い86cm。

カラダにシーライスが付着していたから、
産卵行動に参加後、
一気に海に下っていたのだろう。

ほぼ再現性を期待できないであろう
このタイミングでのヒットだったから、
この出来事は、
とびきりの「海からの贈りもの」。

いくつかの傷は残っていたけれど、
海でリハビリしてきただけのことはあって、
サイズ以上に強烈なファイトをしてくれた。

立派なアビラビレに・・・

糸を引くように美しい背ビレ・・・

ひとつひとつのパーツが美しい、
記憶に残るイトウであった。

いや~、何度通っても
道北のフィールドって
本当に素敵なところだなと思う。

次に訪れるのは
きっと秋になってしまうと思うけれど、
再訪の日を心待ちにしたい。

ん・・・
本当に秋まで待ち切れるのかな!?

だって、天塩川の中流に行けば、
夏だってイトウに出逢うチャンスは
十分あるしー・・・

あっ、そうそう、
釣りバカに付ける薬は
ないんだったっけな(笑)

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