天塩川ボーナスステージ~プラチナ

前回からつづく)

次に向かったのは、
車で10分ほど走ったところにある
倒木絡みのピンスポット。

そこは、数キャストで
探り終えてしまうような
とても狭いポイントなのだが、
イトウが入っている確率は高い。

ただ、サイズは選べない。

それでも、
近い距離にいるのなら、
とりあえずは探っておきたい
ポイントではある。

ここまでの展開を考えれば、
もしイトウが定位していれば、
おそらく一発で
口を使ってくるに違いない。

そんな確信があったから、
キャスト前に深呼吸して
一旦、肩の力を抜く。

そうそう、
前のめりになったメンタルを
一旦、フラットなところまで
引き戻す作業って、
やっぱり大事なのだ。

余計な力が抜けたことを確認した後、
倒木の際ギリギリをめがけて、
おもむろにミノーをキャスト。

すると…

ぽっちゃ~ん…

ココン! グン、グン!!

あれっ、
ずいぶんと小さいな…。

狙いどおりのヒットではあったが、
期待していたサイズには程遠い。

かわいいサイズなので、
すぐに岸際まで立ちこんで、
一枚だけ写真を撮ってから、
魚に体力が残っているうちに
さっとフックを外そうと試みる。

ところが、
ここ最近の増水の影響で、
岸際には
泥が高密度で堆積していたため、
足がズッポリとハマり
なかなか抜け出すことが
できなくなってしまったのだ。

仕方がないので、
河畔に積もっていた
雪の上に魚を抜き上げ、
手早くフックを外す作戦に変更。

抜き上げる前にカメラを準備し、
リリースまでの全工程を
約10秒で完遂するイメージを持って
一気にイトウを抜き上げた。

イトウのサイズは、
だいたい50cmほど。

手早くフックを外し、
ワンカットだけ
撮影させてもらった画像がコレ。

その後、すぐに
イトウをリリース。

魚を弱らせないことと、
最低限の記録を残すという作業を
なんとか両立することができた。

だが、もうひとつだけ
大きな課題が残っていた。

そう、泥にハマっていた
自分の足はまだそのままの状態。

なかなか上手に
抜くことができなかったのだ。

その後、
大汗をかくことにはなったが、
なんとか脱出に成功。

いくら勝手知ったるポイントといえども、
泥炭に覆われた川に立ち込む時には、
慎重の上にも慎重な判断が
求められるということだろう。

う~ん、これは反省!

この時点で、
時計の針は
ちょうど正午を指していた。

帰りの長距離ドライブに
要する時間を考慮すると、
次に向かう場所が
今シーズンのラストポイント。

だから、ラストに
ふさわしいポイントで
今シーズンの
天塩川の釣りを締めくくりたい。

その時の僕は、
そんなことを考えていた。

ここまで、
数だけで言えば、
二日で4本のイトウと
たくさんのアメマスに出逢えている。

だから、単に
これ以上スコアを積み上げるだけでは、
もはや何の意味もない。

理想のスタイルで釣りをして
自分が納得できる形で
今シーズンの
天塩川の釣りを締めくくる。
それで結果が伴えば、なお良し。

やっぱり、
そこを追求しないとね!

これで、方針は決まった。

向かったのは、
朝イチに事件が発生したあの場所。

準備を整え、
まずは、河畔に立って、
流れの様子を観察してみる。

ここは下流域のポイントゆえ、
潮汐の影響をモロに受ける場所。

よ~く目を凝らして
流れを観察してみると、
朝と比べて、
少しだけ水位が
上がっているようにも感じられた。

水位の上昇に伴って、
カレントの位置も微妙に変化。

立ち位置、
キャストする方向とも、
朝イチと同じアプローチなんかじゃ
今度は通用しないよ!

そんなふうに、
天塩川の流れが
ささやいているようにも思えた。

そこで、足の置き場を
朝よりも上流側に1mほど移動。

キャスト方向も、
ダウンクロスからクロス方向へと
少しだけシフトさせることを決めた。

おそらく、勝負は1投目。

結果はどうあれ、
すべてをこの1投に賭ける覚悟で、
キャスト&リトリーブできれば
もう、それだけでいい。

一度、深呼吸して
肩の力を抜いてから、
キャストの態勢に入る。

そして、勝負の1投は
滔々と流れる天塩川の流れに向け、
ついに放たれることとなったのである。

カスッ…

ん、、、えっ!?

天塩川の流れから
返ってきたその反応は、
かなり意外なものであった。

あれほどまでに全神経を集中し、
自らが蓄えてきた
ありったけのスキルを駆使して
キャストしたというのに、
結果は、ミスバイト。

その時の僕は、
半ば放心状態になって、
しばらくの間、
自分自身で心の整理が
つけられない状況に
陥ってしまっていたように思う。

これで、本当に
今シーズンが終わってしまったかも…

たぶん、
それが正直な気持ちだったはずだ。

ただ不思議なことに
自暴自棄になるようなことはなかった。

自分にできることはやれたし、
それで結果が出なかったのなら
それは仕方がないこと。

おそらく無意識の部分で、
そう割り切れていたのだろう。

一旦、車に戻り、
事前にコンビニで
買い込んでおいたパンを
むしゃむしゃと頬張る。

その頃になると、
少しだけ時間を置いたことで、
心はだいぶ
普段の落ち着きを取り戻していた。

ここで、
もう一度冷静になって考えてみる。

ミスバイトという結果にはなったものの、
決してバラしたわけではない。

次があるかどうかはわからないが、
ノーチャンスと断定するのは
まだ早計だろう。

そんなふうに
ちょっとだけ前向きな気持ちが
だんだんと湧き上がってきたのだ。

よし、もう一回だけ
チャレンジしてみよう。

もしその1投で異常がなければ、
今シーズンの天塩川は終了。

そう心に決めて、
もう一度、河畔に向け
歩を進めることにした。

先ほどよりも
立ち位置を50cmほど
上流側に移動させ、
キャストはややダウンクロス方向に。

少しでもイトウが
ルアーをくわえやすいようにと
ちょっとだけ
アプローチをカスタマイズしてみる。

そして、
全神経を集中した最後の1投は
天塩川の雄大な流れに向けて
放たれることとなったのである。

コン!

それは、本当に
かすかなアタリであった。

でも、待つことはしない。

一か八か、
そのショートバイトを拾うために
体全体を使って、
渾身のアワセを入れる。

ブン…、ブン…、ブーン…、ブン…

ロッドを握る右手に伝わったのは
それなりのサイズのイトウの首振り。

なんとか獲りたい!
でも、この時間が
少しでも長く続いてほしい!

その時の感情は
実に複雑だったと思う。

でも、この期に及んで
奇をてらったことをする意味はない。

いつものテンション、
いつものロッドワークで
イトウとの距離を
少しずつ詰めていった。

およそ3分ほどのファイトで
魚を近くの浅瀬まで
誘導することに成功。

期待に応えてくれたその魚は、
十分すぎるほどの
立派な体躯を誇るイトウであった。

長さで言えば、
メーターには少しだけ足りない。

でも、そんなことは
もはやどうでもよかった。

最後の最後、
自分の釣りをやり切って、
そして結果が出たことが、
なによりもうれしかったのである。

これが、
今シーズンラストのイトウ。

水温1℃台の流れに素手を突っ込み
十分に時間をかけて
魚のコンディションの回復を図る。

約5分ほどかけて、
もういつでも
自力で泳げるところまで回復させてから
そっと手を離してみたが、
すぐに逃げ帰っていく様子は見られない。

ならばと、カメラを構え、
元気よく流れに帰っていく
イトウの撮影を試みる。

よし、これなら大丈夫。
来年にはおそらく
メーターを越えているだろうから
またどこかで出逢えたらいい。

イトウにとっては
大迷惑な話なんだけどね(笑)

こうして、
シーズンラストの天塩川釣行、
いや、ボーナスステージが終了。

今度こそ、
本当に本当のラストである。

やわらかな
12月の太陽に照らされて
まるでプラチナのように
水面を輝かせる天塩川。

いつものように
その流れと
そこに棲む魚たちに向けて一礼する。

コロナ禍を乗り越え、
また来年もこの場所に立てたらいい。

それにしても天塩川って、
いや~、ホント、
すっげー川だよなあ~…

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