天塩川ボーナスステージ~ゴールド

前回からつづく)

翌朝、初山別の宿を出て
天塩町方面へと車を走らせた。

前日に気温が
ずいぶんと上昇した影響もあって
アイスバーンは完全に姿を消し、
前日とは打って変わって、
路面状態は至極良好。

そのおかげで、
当初、1時間ほどを見込んでいた
ポイントまでの所要時間は
かなり短縮されることに。

この日は、
朝からずいぶんと
幸先の良い
スタートとなったのである。

この日の狙いは
天塩川下流域のポイント。

大量にストックされた
アメマスを避けつつ
ターゲットをイトウに絞って
あわよくば、
サイズアップを狙いたい。

謙虚さのかけらも感じさせない
図々しい算段ではあったけれど、
この日は、本当に本当のシーズン最終日。

それゆえ、この日ばかりは
自分に高いハードルを課すのも悪くない。

そんなふうに
前日の夜から妄想していたのだ。

到着した下流域のポイントは
中流域よりも
ずいぶんと積雪が少ない状況。

おかげで、
無駄に体力を消費することなく、
つつがなく河畔まで
たどり着くことができた。

目の前を滔々と流れる
天塩川の水色は、
若干、雪代の影響があるのか
普段の12月よりも
いくぶん透明度が低い状態。

その分、
このシーズン独特の雰囲気が
いくらか薄まってはしまうけれど、
魚に口を使わせることだけを
考えるのならば、
これ以上ないほどの
完璧な条件が揃っていたのであった。

そして、
その最初のポイントで
ちょっとした事件が起こる。

まずは1投目、
ダウンクロスにキャストしたルアーが
流れを横切り反転するその瞬間、
明らかな違和感が
ロッドティップに伝わった。

すかさず、
渾身のアワセを入れる。

スッコーン!

あちゃ~、
完全な空振りである。

ただ、魚が
フックポイントに触ったという
感覚はなかった。

ならば、もう一回、
必ず口を使ってくるはず。

今度は、よりいっそう
集中力を研ぎ澄ませてから
ルアーをキャスト。

もう一度、
同じコースを
慎重にトレースしてみる。

ドン!
ジィーーーーィーーーーィーーーーーー

止まらない、止まらない、
完全な大暴走だ!

ラインが
ものすごい勢いで引き出され、
みるみるうちに残量が減っていく。

そして次の瞬間、、、

フゥッ

一瞬、血の気が引くような
絶望感とともに
ラインテンションは完全に失われた。

あ゛ー

およそ30秒ほどは
暴力的な突進に
ひたすら耐え続けていたと思う。

でも、その突進を
制御することはできなかった。

ここで、おもむろに
力なくルアーを回収。

すると、
そのベリーとリア、両方のフックの先で、
太陽の光を浴びた大きな鱗が
キラキラと輝いているではないか。

なるほど、ミスバイトして
スレ掛かりしちゃったんだな。

その光景を見て、
ようやくコトの真相を
理解することができた。

まあ、イトウ釣りでは
しばしば起こるアクシデント。

負荷をかけてしまったイトウには
本当に申し訳ないのだけれど、
やれることは
ちゃんとやってのことだったから
これはもう仕方がないと
割り切るしかないだろう。

後から考えてみると、
そんなふうに
すぐに気持ちを切り替えられたのが
この時の僕にとっての
せめてもの救いだったような気もする。

カラダのどこの部分の
鱗なのかにもよるが、
魚のサイズは
おそらくメーター前後だろう。

もし、針先に付いていたのが、
見たこともないような
大きさの鱗だったとしたら、
もっと動揺したかもしれないけれど、
そうでなかったことも
僕にとってはラッキーだったと思う。

こういう
突発的な事件が起こった時、
メンタルをすぐに
立て直せるかどうかはとても重要。

絶望から大きな期待へ。

ここでスパっと
気持ちを切り替えられたことが
この後の展開を
大きく左右することになるのであった。

ちょっとだけ
場を荒らしてしまったので、
一旦車に戻って、
次のポイントへと移動。

移動先は、
確率こそ高くはないが
一発大物の期待もある
意外性の高いスポットである。

ヌ~~

グワァ~ン、グワァ~ン、グワァ~ン…

ポイントに到着しての1投目、
ほぼ着水と同時に
イトウがルアーを
一気にひったくったのだ。

ややアワセ遅れたが、
なんとかリカバリーに成功。

そこからは、
イトウとつながった至福の時間を
じっくりと味わうように
無理のない慎重なファイトで
魚との距離を徐々に詰めていく。

なんだこれ、ぶっといぞ!

これが、浅瀬に横たわる
イトウを見た瞬間の第一印象。

サイズこそ80cmクラスなのだが、
背中なんかちょっと
セッパリになっているくらいだし、
ぱっつんぱっつんのボディーは
まるで鋼のような張りを誇っているのだ。

それから、
鱗の大きさなんかも
念のため確認してみたりもした。

うんうん、
さっきの鱗よりは
だいぶ小さいような…(笑)

まあ、このサイズの魚で
このコンディションなのだから、
メータークラスの魚にスレ掛かりしたら
制御不能になるのも当然だよな。

この魚、見る角度によっては
普通のイトウのようにも見える。

でも、シルバーメタリックに
装飾されたその魚体は、
素晴らしいのひとこと。

ただでさえ
天塩川のイトウは別格なのに
こんな見事な魚体を見せつけられては、
天塩川中毒が
より深刻になってしまうぞなあ~(汗)

この後、
時間をかけて回復を図り
イトウをリリース。

あんな事件が
起こった直後のことでもあるから、
この一本をキャッチできたことで
心に余裕が生まれたのは
とっても大きい。

あとは残り時間、
後悔することがないよう、
やれることをやるだけ。

そんなスッキリとした気持ちで
次のポイントへと向かう。

そして
次に目指したその場所でもまた…

次回に続く)

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