春イトウラストシーン

(前回からつづく)

ベニヤ原生花園を後にし、
湿原河川へと向かう途中、
ふと、思い立って
猿払村のはずれにひっそりと佇む
カムイト沼に立ち寄ってみた。

設置された木道は劣化が著しく
立入禁止になっていたので、
安全な場所から
数カットだけ写真を撮影。

この場所、
いつ立ち寄っても
道北らしい景色が広がっていて、
なんとも癒される。

ただし、、、

ひとり、立ち入り禁止区域に入り込んで
ルアーをキャストする輩がいたのは
だいぶ余計だったけど……。

せっかく
モヤモヤを払拭できたのに、
ここでまた
ストレスを溜めるのはバカみたい。

だから、
すぐにその場を退散して、
目的に川へと向かうことにした。

でも、このコロナ禍で
病院がてんやわんやになっている中で、
道外からこの地にやってきて、
立入禁止区域内で怪我でもしたら
いったいどうするつもりなんだろう?

不可抗力?
いや、それは絶対に違うでしょ。

もし今、その釣り人が落水して
大声で助けを求めてきたとしたら、
いったい僕はどうする?

急いで救助に向かう?
いや、わからんな……。

道外ナンバー狩りをする
つもりなんか毛頭ないし、
責任ある行動をとれるのなら、
今、道外から遠征してきても構わないと
僕は思っている。

ただ、せめてもう少しだけ
想像力を働かせて
行動してくれたらいいのに……。

同じ釣り人として、
つい、そんなことを思ってしまった。

またしても
少しテンションが下がってしまったが、
そんなシーンに遭遇してしまった以上、
実に悲しいことではあるが、
これが僕たちアングラーの
現在地だと割り切るほかないだろう。

そう思ったら、
気を取り直すことできた。

そう、自分に
コントロールできないことで
大きく感情を揺さぶられたところで、
打つ手はないのだ。

この点で、
朝とは少し状況が違ったかな……。

その後、何カ所か寄り道をし、
目的の場所に到着したのは
午後6時半を過ぎた頃のことだった。

作戦は、「まちぶせ」。

そう、春イトウラストシーンを
午後6時55分の法則
賭けてみようと決めていたのである。

もちろん、
この作戦を選んだのには
明確な理由があった。

ひとつは、
快晴、微風の条件下では
もっとも確率の高い
作戦であると考えられたこと。

もうひとつは、
「まちぶせ」なら、
変に心が揺れる
心配がないということであった。

そう、この作戦は、
その場所に立ったら、
あとはそこで
やれることをやるだけ。

つまり、
他のアングラーに
干渉される心配も無用で、
自分の釣りに
集中できるということなのだ。

キャストを開始したのは
午後6時50分頃のこと。

そこから、
すでに15分が経過したけれど
キャストするルアーに
何ら異変を感じることはない。

う~ん、
日没時刻が遅くなった影響もあるのか、
この日、午後6時55分の法則は
どうやら機能しなかったようだ。

ただ、この数分間で、
視界に入ってくる
ベイトフィッシュの数は
明らかに増えてきている。

うんうん、
雰囲気は悪くない。

よし、あと10分だけ、
粘ってみることにするか。

しかしながら、
それから5分、8分と経過しても
キャストするルアーに
何の異常も起こらなかった。

そして、ついに
春イトウラストシーンまで
あと3投と決め、
カウントダウンに入る。

1投目……

岸沿いのコースを
慎重に通してみるが無反応……。

そして、2投目……

今度は、
少し沖目のコースを通してみるが、
同じく無反応……。

まあ、今年の春は、
いろいろあったけど、
自分なりに
やり切った感はあった。

最後、お気に入りのこの場所に立ち、
穏やかな心で
キャストできていることだけでも
ヨシとすべきなのだろう。

そんなことを
自分に言い聞かせるようにしながら、
ラスト1投、
トレースするコースを考えていた。

よし、最後は
もっとも確率の高いコースを
自信を持って
トレースすることにしよう。

やることは、
すぐに決まった。

そしてラスト1投、
キャストしたルアーは
狙いどおりのスポットに着水。

そして、リトリーブするルアーが
手元まであと2mというところに
差し掛かった瞬間のことだった……

カスッ!

ブン、ブン、ブン、ブン……

ひったくるような
ショートバイトを捉え、
見事、フッキングに成功!

だが、ここからのやり取りは
常にヒヤヒヤの連続であった。

なんたって、
イトウの口先に
フックがちょこんと
掛かっているだけであることは
あの「カスッ」から
容易に想像できていたのだ。

そこからは、
とにかくイトウが
イレギュラーな動きをしないように
慎重なファイトを展開。

さしたる重量感こそないものの、
容易に御せるような
サイズでもなかったので、
いつも以上に時間をかけて
徐々にイトウの体力を奪っていく。

そして、
いざ勝負に出ようとした瞬間、
思わず心臓が凍り付くような
景色を目にすることになる。

そう、フッキングが
まさしく皮一枚だったのだ。

これだと無理もできないが、
ファイト時間をこれ以上
長引かせることもできない。

うんうん、
もうこれは
意を決して勝負に出るしかないな。

そして、
イトウの顔がこちらを向いた瞬間、
一気に勝負をかける。

エイッ!

んんん……、入ったか?

それとも、逃げたか?

フックが
イトウの口先から外れた瞬間を
僕は確かに見ていた。

ただ、それは
イトウがランディングネット上に
寄ってきたのとほぼ同時。

後は、ネットの中に
魚が入っているかどうか、
その一点に
焦点は絞られたのだ。

恐る恐る
左手でホールドしていたネットを
少しだけ引き上げてみる。

おっ、ちゃんと重みを感じるぞ!

そう、すくったのが先か、
フックが外れてから
イトウを無理やりネットで
キャッチしたのかはわからないが、
いずれにしても
ランディングまで持ち込むことに
無事、成功したのであった。

サイズを測ると、91cm。

大きさだけを言えば、
朝の魚たちには到底及ばなかった。

でも、自分の中では、
いろんな意味で価値ある一尾。

だから、
サイズなんてまったく関係なく
この一尾に出逢えたことが
とにかくうれしかったのである。

時計の針は
すでに19時25分を指していたが、
ストロボを使わなくても
何カットか撮影ができたのは幸いだった。

6月に入ると、
午後6時55分の法則は機能しない。

そうそう、
思い出してみれば10年前も
そうだったかもしれない。

この日のヒット時刻は
午後7時20分頃。

これだと
「法則」という言葉を使うのは
適切ではないことになってしまうけど、
これもまた
ネイティブフィールドで起こった
ワンシーンと捉えれば
決して不思議なことではないのだろう。

こうして、
今年の春イトウラストシーンは
生涯思い出に残るであろう
印象的な瞬間となった。

さて、僕はあと何回、
春イトウに
挑むことができるのだろう。

その答えは誰にもわからないけど
一年でも長く、
スプーキーなイトウへの挑戦権が
手元にあり続けるよう、
仕事に、遊びにと、
一所懸命生きないといけないな。

そんなことを
強く意識させられた
今シーズンで
あったようにも思う。

コロナ禍を乗り越えたら、
是非、皆さんにも
素晴らしき道北のフィールドを
心ゆくまで
堪能してもらいたいと思います。

次世代に環境や資源を
つないでいくという意識の高い
アングラーが増えれば増えるほど、
タバコの吸い殻を
ポイ捨てするような輩の居場所は
必ず無くなっていくことでしょう。

その意味でも、
これまでイトウに挑戦したことのない
道外のアングラーが
この地を訪れるようになることを
心から歓迎したいですね。

ワクチンが普及することだけで
すべてが解決することはなくても、
接種が進むことで、
それがゲームチャンジャーの
役割を果たすことは
ほぼ間違いありません。

その時まで、
あとひと頑張り。

来年の春は、
「道外からのイトウ遠征大歓迎」と
大手を振って言える、
そんな状況になっていることを
切に願いましょう。

そのためには、
あえて自戒の念も込めて言うならば、
市民一人ひとりができる感染対策を
地道に積み重ねていくことが
必要になってくるでしょう。

いろいろと思うところはあっても
政治や行政批判はほどほどにして、
釣りでもそうだけど、
カイゼンのベクトルを
自分自身に向けることって、
やっぱり大事なことですよね。

(春のイトウシーズン、おわり)

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