テッシ・オ・ペッ

テッシ・オ・ペッ

アイヌ語で「簗の多い川」の意。

川を歩くとわかるのだが、
天塩川の本流には
確かに「簗」のような地形が多い。

岩盤、古い木株、
粘土層などで形成されたテッシは、
乗ればとにかく滑るし、
ひとたびルアーを引っ掛ければ
回収するのは容易ではない。

だから、天塩川に刺さるアングラーは
テッシと上手に付き合うことを
問答無用に強いられる。

けれど、このテッシの存在が
天塩川の魚たちを守っているのも事実。

テッシにより形成された無数のスリットは
魚たちにとって、
鳥や釣り人などの天敵から身を守る
格好の棲み処となっているのだ。

週中、仕事の合間を利用して
テッシ・オ・ペッに
刺さることを許された。

しかしながら、
当日は、西高東低の冬型の気圧配置。

こうなると、道北地方、
特に天塩川流域の天候は
極端に不安定になる。

現に、空模様はこんな感じ。

晴れ間もあるが、
急に真っ黒な雲が湧き立ち、
あられや雹が降ってくる。

こんな時、
何と言っても恐ろしいのは雷。

昨年の恐怖体験を教訓として
慎重には慎重を期しての
エントリーとなった。

川の方は言うと、
しばらく減水状態が続いている。

それでも、
だいぶ水温も下がってきたので、
水質は悪いというほどではないのだが、
やっぱり魚の活性は高くない。

はじめにエントリーした下流域では、
ポイントごとに1尾ずつ
アメマスがヒットして来る状態。

それなりに期待して
キャストを続けるのだが、
本命からの反応はない。

天候が不安定なので、
車から離れたポイントには行けない。

寒冷前線が通過した後であっても
油断は大敵。

だから、すぐに避難できて
かつ、自分が避雷針にならないような
地形の場所に絞り込んで
安全第一でエントリーしていく。

次に入ったのは、
テッシが絡む中流域のポイント。

瀬頭、流心、ヨレ、ヒラキ、瀬尻と
丁寧に探っていくが
アメマスの反応すらない。

それなりの期待値がある
ポイントだっただけに
当然、テンションは激下がり。

早起きや仕事の気疲れもあり、
しだいに、集中力は
途切れがちになっていった。

半ば心が折れた状態で、
流心脇を細々と流れる
貧弱な瀬にルアーをキャスト。

すると、あっけなく根掛かり。

ロッドを小刻みに動かして
ルアーの回収を試みる。

"フッ"とした感触とともに
地球からルアーが外れる。

勢いあまって、
水面からルアーが飛び出す。

そのあとを追って、
黒い物体が水面から飛び出す!?

エッ?????

一瞬、思わず言葉を失った。

あの貧弱な流れに
イトウが入っていたことも
「お前はシャチか!」と
ツッコミたくなるような
見事なジャンプを披露したことも
どちらも驚きでしかない。

当然、やっちまった感もあった。

けれど
ワクワク感の方が明らかに勝っている。

だって、なかなか見られないような
興奮のシーンに遭遇できただけでも
十分に価値があるっていうもの。

それが、その時の
素直な気持ちだった。

一旦、落ち着こう。

若い頃の自分には
たぶんできなかっただろうけれど、
こんな時こそ、
頭をクリアにする必要があることを
老いとともに学んできた。

だから、
その時は、自然にそうできた。

クリアになった頭は、
すぐにキャストを再開することを
毅然とストップさせた。

そもそも根掛かりしたのは、
集中力が切れて、
不合理な立ち位置からキャストしたから。

ならば、立ち位置を変え、
有利なポジションから
再キャストする方が得策だ。

その方が、バイトに持ち込める確率は
格段に高まるに違いない。

ドン!

判断は、吉と出た。

次のキャストで、
先ほど姿を現したイトウは
しっかりとルアーをくわえたのだ。

そこからは、
イトウとつながった至福の時間を
心ゆくまで愉しむ。

鋭利な刃物のように切り立ったテッシに
ラインがコンタクトしないようにだけ
細心の注意を払いながら・・・

およそ2分ほどのファイトで
首尾よくキャッチすることに成功。

83cmと大型ではないものの
なかなかの面構えをした
オスのイトウであった。

そうそう、何を隠そう
私にとってコイツが
今年初の秋イトウ。

ハイシーズンとなる10月なのに
まるまる1カ月間も
お預けを喰らっていたから、
イトウとの再会に心は踊る。

せっかくだから、
テッシの地形を利用して
何カットか撮影させてもらった。

やっぱりテッシ絡みのイトウは
ちょっと黒の色彩が強い。

汽水域の銀ピカも見事だが、
これはこれで、悪くない。

しっかりと回復させてから
イトウを流れにそっと戻すと
テッシで形成されたスリットに向けて
勢いよく帰っていった。

さてさて、
仕事のついでとは言いつつ、
もう1日だけチャンスはある。

何とか天候が安定し
少しでも集中して
釣りができることを願いつつ、
翌日の朝を迎えることとなった。

次回へ続く)

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