天才クン再び現る

前回からつづく)

翌日も、
仕事の空き時間を見つけての釣り。

ところが、この日も
一向に天候が安定しない。

川に刺さることができる時間は
限られているのに、
車に退避せざる得ない時間が続く。

ネットで雨雲の様子を確認すると
天塩川中流域の中川町あたりに
断続的に雲が流れ込んできている。

このまま待つか、それとも動くか。

少し迷ったけれど、
時間の許す限り、
天塩川本流以外の川も含め、
いくつかのポイントを
回ってみることにした。

その中には、
私がかつて手玉に取られたことのある
イトウが生息する流域も含まれていた。

そのイトウは、
明らかに120cmを超える大型魚。

私がキャストするルアーなんぞには
一切目もくれず、
こちらの存在に気づきながらも
目の前でリアルベイトを
捕食し続けるツワモノだ。

私は、そんな彼のことを
「天才クン」と呼び、
ずっと畏敬の念を抱いていた。

天才クンは、
私のキャストしたルアーを
少なく見積もっても
200~300回は見ていると思う。

けれど、彼がそのルアーに
興味を示すことはなかった。

あの一瞬を除いては・・・

あの一瞬とは、今から7年前、
フィールドに爆風が吹き荒れていた
ある6月の朝のことだった。

その日は、
天才クンのテンションがいつになく高く、
いつも以上に派手なアクションで
ベイトを追いまわしている。

それまで、何度も何度も
ルアーを無視され続けていたが、
その日ばかりは
何かが起こりそうな雰囲気が
フィールドから漂っていたのだ。

立ち位置、キャストの方向、
そしてルアーを放つタイミング、
ありとあらゆる神経を研ぎ澄ませ、
乾坤一擲、
彼の捕食ゾーンに向けてルアーを放つ。

次の瞬間、
水中に、「白いモノ」が
くっきりと映ったのを
私は見逃さなかった。

彼が捕食のため、
大きな口を開けた瞬間をとらえたのだ。

すかさず、思いっきりアワセを入れる。

が・・・

次の瞬間、無情にも、
ルアーだけがこちらに向けて
吹っ飛んできたのだった。

それから約2年ほどの間、
彼を見つけては
手を変え品を変え
チャレンジを続けてみたけれど、
結局、相手にされることはなかった。

やがて、何度その場所に通っても
彼の姿を見つけることはできなくなった。

きっと寿命が来て
死んでしまったのだろう。

勝手にそんな解釈をして、
あきらめきれぬ想いを胸に秘めたまま
約5年の月日が流れていたのだった。

ところが・・・、である。

悪天候から
逃れるように向かったその場所で、
不意に私は天才クンとの
再会を果たすこととなったのだ。

皆さんすでにお分かりだと思うが、
その魚が天才クンであるという
客観的な証拠などどこにもない。

違う魚であると考える方が
むしろ自然だとも言えるだろう。

でも、私には確信があった。

私の手の届く範囲で、
悠然とベイトを捕食する
そのふてぶてしいほどの立ち振る舞い。

そして、昔と同じように
私のキャストするルアーには
一瞬たりとも反応しない鋼の精神力。

その魚は、
あの天才クンにしかできなかった芸当を
涼しい顔をしてやってのけたのだ。

唯ひとつ、
5年前とは違うことがあった。

それは、天才クンが
さらに大きく成長していたこと。

私にとって、
ここまで巨大なイトウに遭遇したのは
生まれて初めてだった。

そんなこともあって、
正直、目測が正しいかどうか
怪しいところはあるのだが、
小さく見積もっても、
130cmクラスではあったと思う。

もちろん、彼が口を使ってくれたら
言うことなしなのだけれど、
そうは問屋が卸さないことは
誰よりも自分が知っている。

だから、彼の雄姿を
久しぶりに拝めただけでも
私の心は、これ以上ない満足感で
満たされたのであった。

そんな出来事もあったので、
その後、何とかして
イトウを釣ってやろうという執着心は
やや薄れてしまったかもしれない。

それでも、帰路、
雲が去ったタイミングで
エントリーした
天塩川中流域のポイントで
かすかな反応を得た。

カスッ・・・

もしかすると、
これはイトウのミスバイトかもしれない。

集中して、再度、同じスポットにキャスト。

コツ・・

今度は、
思いっきりアワセを入れる。

ヒラヒラヒラ・・・・

次の瞬間、木の葉が宙を舞った。

ん・・・

よ~く見ると、
木の葉じゃない、魚だ!

正体は、コイツ・・・

カワガレイでした。。

猿払川の河口や
天塩川の最下流域では
しばしば登場する外道ではあるけれど、
ここって、河口から50km以上も
上流なんですけど・・・

いったい、
どこからやってきたのでしょう。

いくら淡水にも適応できる魚とは言え、
小さなカワガレイが
いくつもの激流の瀬を超えて
延々と長い距離を遡上してきたとも
考えづらいのですよね。

う~ん、今年は
ミステリアスなことがよく起こる。

釣果に満足ではなかったけれど、
それも含め、天塩川で愉しいひとときを
過ごさせてもらいました。

やっぱり、天塩川はおそるべし。

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