(前回から続く)
【DAY1】
ポイントを前にして、
私はドラグの調整をしていた。
気温が下がると、
ドラグがきつくなりがち。
それを微調整してから
キャストを開始するのが
いつものルーティンなのだ。
そんなことをやっていると、
早くもとなりのロッドが
美しく弧を描いている。
えっ、マジか・・・
いくら悪くない条件とは言え、
こんなにもあっさりと
鱒からのコンタクトが訪れるとは
正直、思っていなかった。
だからちょっとだけ焦ったけれど、
凍ったネットを湖水で融かし、
ゆっくりとネットインする。
カミさんがキャッチしたのは
50cmを少し超えたくらいの
美しいアメマス。
ランドロックの
いわゆる金アメである。
ずいぶんと幸先の良いスタート。
やっぱり、
今日はいつもと何かが違う。
このポイントにしては、
あまりに勝負が早すぎるのだ。
そこで、
水面によ~く目を凝らしてみる。
すると、どうだろう。
ワカサギなのか
ウグイなのかはわからないが、
大量のベイトが
フィッシュイーターに
追われているではないか。
そこからが、凄かった。
カミさんは、
アメマスを連続ヒット。
今度は、
釧路川を遡上してきたと思われる
いわゆる銀アメであった。
そうこうしているうちに、
ようやく私に
待望のヒットの瞬間が訪れる。
悪くないサイズ。
60cmくらいはありそうだ。
が、何か様子がおかしい・・・。
ニジマスにしてはスピードがないし、
アメマスにしては
トルクが大きい気もする。
案の定、
その疑念は、
プチ”事件”へと発展。
ん・・・
コイツは・・・
やっぱり、イトウだったのである。
サイズは、60cmを
少し超えたくらいだっただろうか。
でも、胸ビレの様子などからすると
釧路川を遡上してきた魚じゃなくて、
ニジマスに混じって
人為的に放流された魚の予感!?
昨年あたりから、
屈斜路湖では、
小型の放流イトウが釣れているようだし、
一年でそれなりのサイズに
成長したと考えた方が自然な気もする。
なんだか素直に喜べないけど
魚に罪はないしなあ~。。
う~ん、ちょっと複雑・・・
イトウは
じっくり回復させてからリリース。
手を湖水でキレイに洗い、
タオルで拭いて・・・
そのタイミングで、
右隣をチラ見すると、
またしてもカミさんのロッドが
曲がっているではないか。
まさに、間髪入れずの
連続ヒットである。
今度は、ロッドティップの動きが
かなりあわただしい。
サイズ感はないが
小気味の良さを感じさせるファイト。
キャッチしたのは本命、
ニジマスであった。
40cmを少し超える程度と
やや小型ではある。
でも、屈斜路ニジマスの
片鱗は十分に備わった
銀ピカの魚体。
う~ん、イトウより、
こっちの方が断然いいよな。
そこからは
ほぼワンキャストワンヒットで、
ほとんどの時間、
魚を触っている状態に。
アメマスばかりだけど、
小さくても50cm、
大きいヤツは
60cmを楽に超えてくる。
しかも、この時期にしては
アメマスの肌艶がイイ。
いや~、
これは本当に贅沢すぎるぞー。
そんなこんなしていると、
また新たな”事件”が勃発する。
私がキャストしたルアーに
何やらバケモノ級の魚がヒットしたのだ。
はじめは、
またイトウじゃないかと疑った。
イトウならば、
合点のいくサイズである。
でも、ファイトの様子が
イトウのそれとは明らかに違う。
慎重に寄せてくると、
目に飛び込んできたのは
ドーナツ状の
でっかいホワイトスポット。
想定外の魚のデカさに
しばし言葉を失ってしまった。
あちゃ~、
コレ、ぜんぜん
ネットに入らないってばー!
そうそう、
70cmクラスの鱒なら
何の問題もなく
頭からスッポリ入るネットなのに
全く使い物にならない。
仕方がないので、
ロッドワークで魚をいなしながら、
少しずつヤツの体力を削いでいく。
数分のやり取りの後、
ようやく疲れの見えたヤツを
そっと岸に横たえる。
うわっ、デカッ!
サイズを測ってみると、
83cmもある。
うちわみたいな尾ビレ・・・
イカツイ顔つき・・・
しかも胴回りがぶっといから、
ボリューム感もハンパない。
確かに、ここ屈斜路湖には
大型のアメマスが多数生息しているし、
70cm台の魚なら、
今までに何度もキャッチしているけれど、
80cmオーバーは初めて。
予想もしていなかった
巨大アメマスとの遭遇に
年甲斐もなく
ちょっとオロオロしてしまった。
魚がデカいだけあって、
回復にちょっと時間がかかったけれど
無事、ヤツは湖水へと帰る。
いやはや、
こんな想定外だったら
いつでも大歓迎だ。
この後も、
アメマスは釣れ続けた。
サイズは、
相変わらず全部50cmオーバー。
こんな金アメの
60cm超えも珍しくない。
まるで、
おとぎ話に出てくる夢の国に
突然迷い込んじゃったみたいな
不思議な感覚。
滅多に体感できないであろう
至福の時間を
美しい景色を眺めながら
そっと胸に刻んでいく。
ここまでが、
キャストをスタートしてから
たった2時間ほどの間に
凝縮して起こった出来事。
キャスト数なんて
カミさんと二人合わせても
せいぜい30回がいいところだろう。
ワカサギの接岸する
5月か6月ならわからなくもないが、
厳冬期の12月に
腕がパンパンになるような
衝撃の爆釣劇が起こるなんて
想像だにしていなかった。
そんな調子だったから、
ベイトフィッシュが
そこいらをうろついている限り
撃ち続ければ、
際限なく釣れ続けたとは思う。
けれど、
もうさすがにお腹いっぱい。
鱒たちには、
十分すぎるほど楽しませてもらった。
でもね・・・
それでもまだ、
ミッションコンプリートには
至っていなかった。
そう、屈斜路湖名物の
フォトジェニックな
イケメンニジマスには
まだ出逢えていないのだ。
そろそろ移動して、
夕マズメのワンチャンス、
あごがしゃくれた
デカニジでも狙ってみるとするか。
時刻は、14時過ぎ。
もしかすると、
先行者も移動して、
ファーストチョイスのポイントが
空いているかもしれない。
そんな淡い期待を胸に
移動を決断する。
とは言え、
日暮れの早いこの時期、
勝負できる時間は
1時間と少ししか残っていない。
だから、片付けの時間も惜しい。
仕方がないので、
凍り付いたウェーダーを履いたまま
ウソウソと車に乗り込み、
先ほど先客がいた
ポイントへと向かった。
(DAY1 後編へつづく)