(前回からつづく)
出張2日目の朝、
窓の外は真っ白な景色へと変貌。
外に出て少し歩くと、
「普通に冬かよ!」と
ボヤキたくなるほどの寒々しい空気に
街全体が包まれていた。
う~ん、さすがに
エントリーは厳しいかな???
そんな不安が
ついつい頭をよぎる。
それでも、実際に
フィールドへと出かけてみないには、
エントリーの可否は判断できない。
ここであきらめたら、
あとは、残りの仕事を片付けて
家に帰るだけになってしまう。
ヨシヨシ、
ダメもとでいいから、
湖の様子を見に行ってみよう。
そう決断し、
仕事に向かうには
約3時間フライングとなる時刻に
この日の宿を後にした。
途中、重たい雪に
何度かハンドルを
とられる場面もあったが、
なんとか湖の近くまでは
やって来ることができた。
無理は禁物だけど、
林道も少しの距離なら
問題なく走れそうだな……。
アプローチの不安が解消し、
ひとまずは安堵。
慎重な運転で、
前日、魚が溜まっていたエリアへと
ゆっくりと車を走らせた。
途中、碁石浜から見る景色は
まるで墨絵のよう。
釣りをするには
過酷なコンディションだけど、
こんな絶景を拝めるのは
釣り人の特権かもしれない。
手早く準備を済ませ、
前日に得ていた情報をもとに、
キャストを開始。
リトリーブの感触は
さほど悪くはなかったのだけれど、
前日とは打って変わって、
数投のうちに
魚からの反応が
訪れることはなかった。
岸際に目を向けると
表面張力の高い
あわあわな水の層が確認できる。
昨夜からの一気の冷え込みで、
解氷後1ヶ月のこの時期に
まさかのターンオーバーが
発生してしまったのだ。
ターンオーバーの
規模こそ小さかったものの、
これは歓迎すべきことではない。
この段階で、前日とは
まったく別の展開になることを
僕は覚悟したのである。
ドン!
それは、キャストを開始して
およそ15分後くらいのこと。
前日にニジマスの
バイトがあった立ち位置と
まったく同じ場所からのキャストで、
この日、初の衝撃を捉えたのだ。
こんな
厳しい状況変化に直面しても、
まだ湖は生きている……。
こんなことが起こるのは、
屈斜路湖が秘めた
高いポテンシャルあってのことだろう。
それでも、今日はきっと、
前日にこの場所で起こったような
連続ヒットは望めないはず。
だから、この一尾との出逢いを
大切にしなきゃいけないな。
そう自分に言い聞かせ、
慎重なファイトで
無事、ランディングに持ち込んだ。
バイトしてきたのは、
オスのニジマス。
サイズは53cmだった。
この魚は、
さすがに春を感じさせるような
回復途上の
コンディションではあったけれど、
この厳しい状況の中では
十分すぎる一尾に違いない。
それにしても、
最近の屈斜路湖で釣れるニジマスは
昔とは比べものにならないくらい
体高が高くなっていて……
サイズのアベレージも
5cm以上は上昇している。
う~ん、
この様子を見ると、
やっぱり個体数は
少しずつ減っているのかも、、、
……なんてことも
ふと頭をよぎったが、
それでも支笏湖あたりに比べたら
圧倒的に釣りやすいのも確か。
もしかすると、
これくらいの魚影の濃さが
屈斜路湖の
適正水準なのかもしれない。
ブリブリの魚体を眺めながら、
ふと、そんなことを
思ってみたりもした。
回復系の魚ゆえ、
少し時間をかけて魚をリリース。
気持ち的には、
もうこの一尾で
釣りを終了してもよかったのだが、
仕事に向かうには、
ちょっと時間が早すぎる。
ならば、
前日と比べて、
どれだけ状況が変化しているのか、
この機会にチェックしておくのも
悪くはないだろう。
そう判断して、
そこから約1時間、
キャストを続けてみることにした。
けれども、
結局、追加はなし。
途中、怪しい違和感を
1回感じたくらいで、
それ以外に異常はなかった。
う~ん、たった1日で
こんなにも
フィールドコンディションが
変化してしまうものなんだな……。
ただこれも、
かけがいのない貴重な体験のひとつ。
これをしっかりと経験化して、
次に生かしていけたらいい。
そうも、思った。
その後、一旦車に戻り、
片付けをはじめようと思ったのだが、
仕事に向かうには
まだちょっとだけ時間が早い。
そこで、ウェーダーを
履いたまま車に乗り込み、
砂湯を経由するルートで、
ひとまず美幌峠の麓まで
車を走らせることにした。
林道の入口に到着すると、
フライフィッシャーの方が一人、
湖から上がってきた。
まあここは、人気ポイント。
それゆえプレッシャーは
そこそこ高いのだろう。
けれども、
時間潰しにちょっとやるには
ちょうどいい場所。
ここにいれば、
美幌峠が通行止めにならない限り、
すぐに仕事に向かえるからね。
そしてこの遊び心が、
ひとつの幸運をもたらすことになる。
湖畔に降り、
キャストを開始して3投目。
気持ちいいくらいの衝撃が
ロッドを握る右手に
突如として走ったのであった。
サイズこそ
驚くようなものではなかったが、
4月とは思えない
スーパージャンプファイト。
コンディションのいい
ニジマスであることは
十中八九、間違いないだろう。
激しいファイトに
しばし翻弄される場面もあったが、
最後は落ち着いてネットイン。
うわーーーー、
コイツはマジで素晴らしい!!!
サイズこそ
52cm止まりであったが、
これぞ屈斜路湖のダイアナ。
澄んだグリーンバックが
ビカビカの魚体に
シックな彩りを添えている。
尾びれには、
うっすらとパープルの色彩を帯びた
眩しいほどの銀がさし……。
大きな背ビレが
コンディションの素晴らしさを
物語っている。
いや~、
ここまでのクオリティーフィッシュに
屈斜路湖で出逢えたのは
いつ以来のことだろう。
基本、美しいニジマスが
多く棲息する湖ではあるけれど、
この個体は、ちょっと特別。
ちょっとだけ
トーンを落として撮影すると、
頬のピンク色が
うっすらと浮かんでくるし、、、
アクアマリンのような色彩をした
この目元の美しさには
なかなか出逢えるものではない。
ここまでの釣果も
期待以上のもの。
さらに最後の最後で、
望外のビューティフルフィッシュに
出逢うことが
できてしまったのである。
いやはや、今回の釣行、
もとい今回の出張、もう最高だ!
こうして、
夢のような2日間は
あっという間に過ぎ去っていった。
こういう時は、
仕事のクオリティーだって上がる。
いつでも、
出張はこうあるといいな……。
そんなことをつぶやいていたら、
「もっとちゃんと仕事しろ!」って
クライアントに
怒られてしまいそう。
だけどこれが真実なんだから、
仕方のないことだよね(笑)