2019 釣り納め DAY3

DAY2 後編 からつづく)

【DAY3】

風がないな・・・

翌朝、宿の玄関を出た瞬間、
つぶさに感じたことを
思わず口にしてしまった。

ただ、それは
天気予報が
ズバリと当たっただけのこと。

だから、3日目以降、
厳しい展開になるであろうことは、
遠征前から
覚悟していたことではあった。

とは言え、
現実に直面すると
受け入れるのに
少しばかり時間がかかる。

救いだったのは、
ここまで十分すぎるほどの
スコアが出ていたから、
心にゆとりがあったこと。

その分、勝負の前から
絶望感にすべてを
支配されてしまうようなことは
さすがになかった。

湖畔に立てば、
もしかすると、
そこで何らかの打開策が
見つかることだって
あるかもしれない。

そんな、あってないような
次元のものではあったけれど、
わずかばかりの希望を携えて、
ポイントへと車を走らせた。

この極めて困難な状況で、
必然として
結果を残せる可能性があるとすれば、
それは尾札部川の
インレットなのだろう。

もちろん、
それは十分わかっていた。

けれど、私は和琴半島方面に
ハンドルは切らなかった。

もう、そこまで無理して、
スコアを稼ぐ必要もない。

結果がどうあれ、
あとは屈斜路湖の釣りを
とことんまで満喫するだけ。

日の出が最も美しく
拝めるであろう場所にエントリーして
後は、そのスポットと
心中を決め込めばいい。

ブレない決断を
最後まで押し通せたのは
よかったかなと思う。

雑木林を抜け湖岸に立つと、
穏やかな表情をした屈斜路湖が
私たちを迎えてくれた。

やっぱり、
イイ鱒を釣ることに関しては、
もはや絶望的とも思える状況。

その代わり、
思わず息を呑むような
美しい日の出の景色を
拝めるに違いない。

そう、確信した。

とは言え、朝一番の
ローライトコンディション。

いくら湖面が
ペッタンペッタンだからといっても
100%ノーチャンスかと言えば
決してそんなことはない。

あきらめたら、
その瞬間に、すべては終わる。

少しばかりの期待感を抱きつつ、
キャストを開始する。

しかし、
湖面が派手に割れる瞬間が
訪れることはない。

そうこうしていると、
いよいよ
日の出の時刻が迫ってきた。

ひとまずロッドを
丈夫そうな木の枝に立てかけ、
キンキンに冷えたカメラを手に取って、
視線を山の稜線に向ける。

やがて太陽が
稜線から顔を出した。

さざ波の立った湖面を
鮮やかなオレンジ色に染め上げる。

いや~、言葉もない。
まさに、絶景だ。

この時の気温は
おそらく-20℃近くまで
下がっていただろう。

この厳寒の地ならではの
美しき氷の造形を
太陽が斜めから照らす。

この見事な光景には、
思わず息を呑んでしまった。

こんな絶景に出逢えるのは、
まさに釣り人の特権。

プロの自然カメラマンだって、
大自然が織りなす美しきドラマが
この場所でひっそりと
日々繰り返されていることを
きっと、知らないんじゃないかな。

ちょっと大げさだけど、
そんなふうに思ってしまうほど、
北の大地、北海道の中でも
特に希少価値の高い
自然美なんじゃないかと
思ったりもするのだ。

ただ、そんな絶景は
そう長い時間、
続くものではない。

長くても数分で
ドラマチックな光景は
少しずつ、輝きを失っていく。

ドラマがエンディングを迎えた
そのタイミングで、
私はそっとカメラを置き、
右手でもう一度ロッドを握った。

そこから、1時間ほど
ひたすらロッドを振り続けた。

しかし、鱒からのコンタクトが
訪れることはない。

相変わらず
穏やかな湖面が
周囲の山々を映し出している。

そんな屈斜路湖から、
何ひとつ生命感を
感じることができずにいた。

さすがにこれでは、
粘ったところで
奇跡の再来を期待することは
難しいであろう。

まだまだ
時間に猶予はあったけれど、
今日は早めに
釣りを切り上げることを決断し、
「あと10投コール」をかける。

どんなに状況が悪くとも、
「二度あることは三度ある」
という期待感がないはずもない。

だから、最後の1投まで、
集中力を切らすことはなかった。

8投目・・・

9投目・・・

集中力は、極限にまで高まる。

そして、10投目・・・

最後までやり切ったけれど、
結局、最後の最後まで
バイトが訪れることはなく、
3日目の朝は終了。

結果的に、この瞬間が
2019年最後の
フィッシングシーンとなったのであった。

日単位で、完デコ・・・

これまで10年以上
途切れることなく続けてきた
年末の屈斜路湖釣行を
振り返ってみても、
おそらく一度もなかったことだと思う。

「0」と「1」のはざまで
彷徨っていたものが、
この日は、
「0」の方に転んだのだろう。

だから、ある意味、
予見できたことでもあった。

ただ、完デコは、
やっぱり悔しいなあ~。

80オーバーのデカアメとの遭遇、
良型アメマスの大爆釣、
LLサイズのニジマスとの出逢い、
冬の屈斜路湖の絶景との対面、
そして「完デコ」。

こうやって、
今回の遠征を振り返ってみると、
良い意味でも悪い意味でも
終始、波乱に満ちていた。

だが、そのどれもが、
人の心を大きく動かす力を
持っていたと思う。

その力を体感できたことは、
自分自身にとって、
未来永劫、かけがえのない
思い出になるだろう。

やっぱ、冬の屈斜路湖は最高だな。

心から鱒釣りを愛する
アングラーの皆さん

一生に一度でいいから、
この地を訪れて、思う存分、
釣りを愉しんでもらえたらいいなと
切に願っています!

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