至福の時間

翌朝、宿を出ると、
前日とは打って変わって、
雲ひとつない晴天を予感させる
朝焼けが空を覆っていた。

こんな日は、朝が勝負。

すでに3時台に突入している
日の出の時刻を目安にして、
フィールドへと車を走らせる。

フィールドに到着すると、
そこにアングラーの姿は見当たらない。

いかに平日の早朝と言えど、
この時期にアングラーを見かけないとは
ちょっと不思議だ。

おそらく、釣れているという情報が
あまりないのだろう。

SNSが普及する前なら、
人の動きがここまで極端になることは
きっとなかったと思う。

「イイ」「悪い」は別として、
こんなところにも、時代の波が
ドンドンと押し寄せているみたいだな。

それでも、先行者がいないことは、
魚を釣るという意味において
少なくとも、
マイナスに作用することはない。

さらに、水辺の様子を窺うと
ことのほか騒々しいではないか。

前日の雨が、ここ道北地方では
かなり久しぶりの
まとまった雨だったこともあって、
このタイミングで、
魚の活性が一気に上がったようにも思えた。

こうなると、
イトウに出逢うための片道切符は
もう手に入れたようなものだ。

朝のうちに勝負をつけるべく、
おもむろにキャストを開始する。

しばらくして、
対岸で派手なボイルが起きた。

イトウが、浅瀬に
トンギョを追い込んでいる。

サイズはさほどでもなさそうだけれど、
なんとなく「獲れそう」な雰囲気。

普段は、必要以上にボイルに
振り回されないようにするのだけれど、
ここはひとつの勝負どころと見て、
対岸へと急ぐことにした。

対岸に移動して、1投目。

勝負は、あっけなく決することとなる。

サイドハンドから、
コントロールキャストで放ったルアーが
着水するとほぼ同時に
大きな水柱が上がったのだ。

ジィー・・・ジィーー・・・

けたたましい音を立てるわけでもなく、
滑らかにドラグが出てゆく。

前日にハードな「練習」をしているから、
この程度のファイトなら
余裕を持って対処可能だ。

何度かの突っ込みと
何度かの首振りを交わして、
さほど苦労するなく、
ランディングに持ち込んだ。

ジャスト80cm。

この時期としては
サイズ的にちょっともの足りないけれど、
それでも、十分素晴らしい魚だ。

しばらく魚に見惚れてから、
ゆっくりと回復、そしてリリース。

充実の瞬間を味わえて
何とも言えず、幸せな気分になった。

しばらくして、陽も上がり、
水辺は、少しばかりの
落ち着きを取り戻したようだった。

朝日が斜めから水面を照らす時間帯、
岸際にできる幅1mにも満たないシェードに
小魚たちは身を潜めながら移動を試みる。

それを、イトウが見逃すはずもない。

カケアガリにじっと身を潜めつつ、
ベイトフィッシュをロックオン。

水中では、生き物たちの
生きるか死ぬかの激しい攻防が
繰り広げられているのだ。

そんな水中の様子を妄想しながら、
キャストを再開する。

数投後、ピックアップ寸前のルアーめがけて、
大型のイトウが突進してきた。

ただ、喰わせるには、
いかにも距離がなさすぎる。

昨年の秋、咄嗟に実行した方法でも
喰わせるのは無理と判断。

ルアーを急加速させ、
逃げ切ったベイトを演出するように
一気にピックアップした。

そんな対処が功を奏したか、
イトウは水中で、
「逃げられたベイト」を必死に探している。

完全に「スイッチオン」状態だ。

ここは慌てず騒がず、
こちらの気配を消しつつ、
フルMAXの集中力で、
先ほどと同じコースにルアーを通してみる。

ヌゥーーーーー

ブゥ~ン、ブゥゥゥ~ン・・・

ワッッッシャーン!!!!!

ルアーがイトウの口に吸い込まれ、
大きなイトウが口を開けて
水面で大きく首を振る。

デカい。メーター前後はありそうだ。

ここを耐えれば、
こちらに勝機はある。

テンションを緩めず、かけすぎず。

暴力的な首振りがおさまるまで、
必死に耐える。

首振りがおさまると、
イトウは沖に向かって、一気に疾走。

ただ、激しい首振りで体力を消費したのか、
制御できないほどの
圧倒的なパワーは感じられない。

首振りの時に確認した感じでは、
フッキングに問題はなかった。

ここからは、緊張感を保ちつつも
グッとかみしめるように
至福の時間を味わう。

こんな気持ちになれるのは、
素晴らしい環境があって、
そこに素晴らしい魚がいるからこそ。

そのことへの感謝の気持ちを抱きつつ、
時に激しく抵抗するイトウのファイトを
落ち着いていなしていく。

その後、最後の抵抗にはあったものの、
なんとか無事にネットイン!

うん、こいつは昨日の魚よりも
確実にデカい。

サイズを測ると、101cm。

今年初のメーターオーバーという
うれしさも当然あったけれど、
やっぱりでっかいイトウの
何とも言えない表情がたまらない。

このサイズで、少なく見積もっても
12~13年程度は生きてきたはず。

カラダのパーツひとつひとつも
道北の過酷な環境の中で、
繊細に磨き抜かれている印象だ。

威風堂々としたその姿からは、
風格みたいなものすら感じられる。

近くに撮影しやすい場所もなかったので、
最低限のカットを撮らせてもらって、
すぐに体力の回復を図る。

撮影中も、イトウが
ちゃんと呼吸ができる状態にしておけば、
体力の回復は驚くほど速い。

デッカイ尾びれで、あいさつ代わりに
バッシャンと水を引っ掛けながら、
タンニンを含んだ琥珀色の流れに
勢いよく飛び出していった。

すぐに脱渓出来る場所ではなかったので、
その後、少しばかり釣りを続けることに。

ほどなくして、
70cm台半ばのイトウを
追加することができた。

けれど、撮影中に勢いよく逃亡。
まあまあ、よくあることだし、
うれしい気持ちに変わりはない。

↓ 逃亡直前の様子・・・

今日は、もうここでお腹いっぱい。

満足すぎる釣果に
疲れを忘れ、心は充実しきっていた。

「今日は、釣りはもうやめよう。」

そう決意し、
仕事関係のミッションを完了した後は、
宗谷地域の美しい景色を眺めながらの
チョイ旅に出かけることにした。

昨年、記念すべき第1回目の
投稿で紹介したエサヌカ線も、
「これぞ北海道」というような
牧歌的な風情を醸し出している。

猿払川のポロ沼合流点は、
日中でも相変わらずの人気ぶりだ。

スカンと晴れ渡った空の下、
北海道遺産(外部リンク)にも
認定されている
宗谷丘陵周氷河地形のはるか向こうに
サハリンも見える。

海のブルーも、本当に鮮やか。
言われなければ、
ここが日本のてっぺんの海岸だなんて
誰もわからないような
見事な色彩ではないだろうか。

湿原を蛇行する小河川も
宗谷地域に残る
美しき情景のひとつに違いない。

そして、お待ちかねの昼メシ。

宗谷岬、間宮堂のほたてラーメンは
旅情をかきたてる魅惑の逸品だ。

喜多方ラーメンをこよなく愛する
自称「元ラーメンフリーク」の私は、
僭越ながら、北海道のラーメンに
手厳しい感想を抱くことも多いのだが、
ここのラーメンは、掛け値なしにイイ。

複雑な味わいとかじゃないし、
今どきのラーメンのように
洗練されているわけでもない。

けれど、「The ほたて」的な
濃厚でシンプルすぎるスープが、
ここの風土に完全にマッチしている。

宗谷海峡に広がる
ホタテの漁場を眺めながらの
ほたてラーメン。

ここに来たら、
是非一度、お召し上がりあれ。

そんなこんな、長かった1日が
あっという間に終わった。

明日は最終日、
果たして、どんな展開が
待っているのだろうか。

心躍らせながら、
まだ明るいうちに、
この日の宿へと車を走らせた。

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