金曜日、ほぼ予定どおりの時刻に
仕事を終えることができた。
仕事前に、直前まで
釣りをしていたような雰囲気を
完全に消し去ったところは
自分をほめたい(笑)
あとは直帰するだけだけど、
やはり天塩川の状態が気になる。
行程に大きなロスは生じないから、
天塩川本流といくつかの支流の
増水と濁りの状況だけでも把握しようと
とりあえずサロベツ原野に向けて
車を走らせることにした。
途中、海の向こうに見える利尻山は
中腹まで雪景色。
さすがにもう11月。
いくら今年が異常に暖かいと言っても
冬はもうすぐそこにあるようだ。
たどり着いた天塩川の支流は
やや水位は高いものの、
水質は、ほぼクリアな状態にまで
回復していた。
これなら、支流との合流点は
ワンチャンスあるかもしれない・・・
アングラーの皆さんなら
きっとわかってくれるだろう。
湧き立つスケベ心に
歯止めが効かないことを・・・(笑)
思いついたスポットは3カ所。
車とポイントの往復を考慮しても
1カ所20分もあれば
十分叩くことができる。
1カ所目、2カ所目と
雰囲気は悪くなかったが不発。
そして3カ所目、河畔に出ると
クリアウォーターと濁流の間に
グラデーションができていて、
いかにもイトウが潜んでいそうな
雰囲気が漂っていた。
ファーストキャスト・・・
不発・・・
その時だった。
リンリン、リンリン・・・
インレットの奥から
熊鈴の音が近づいてきた。
そして、そのアングラーは、
インレットに到着するや否や
こちらに視線を送るでもなく、
私の狙っているポイントの目の前に立ち、
おもむろに水中を覗き込む。
The End・・・
残念なことだけれど、
これは北海道ではよくあること。
だから、私の場合は、可能な限り
他のアングラーとバッティングしそうな
場所や時間を避けて
エントリーするようにしているのだけれど、
それでも、運悪くこういうシーンに
出くわすことはある。
フィールドでの譲り合いという文化が
しっかりとは根付いていない
北海道で釣りをする以上は、
現実を直視して、冷静に対応するほかない。
もちろん、イラっともするし、
およそ受け入れがたい
行為ではあるのだけれども・・・。
モヤモヤした気分を引きずりたくないので、
とっととポイントを譲って
その場を去ることとした。
そんなネガティブな出来事が起こる中、
ひとつだけ、ポジティブな
要素があることに気が付いた。
それは、思いのほか、
天塩川本流の濁りが薄れてきていたこと。
見た目はまだまだ茶色く見えるけれど、
魚がルアーを視認できるだけの透明度にまで
回復しているように思えたのだ。
天塩川本流の場合、
支流の状態が本流の水量や水色に
大きな影響を与えるため、
とにかく上流に行けばいいというほど
単純な話ではない。
さらに水位も、まだまだかなり高いから、
エントリーできる場所も限られる。
それでも、過去に似たような状況で
イトウをキャッチしたことのあるポイントが
2カ所ほど存在することは
頭の中にインプットされていた。
ならば迷うことはない。
あとは、その2カ所で勝負をかけるのみだ。
およそ15分ほど車を走らせて、
1カ所目のランにエントリーする。
その時、時刻の針は13:00を指していた。
とりあえず、ワンキャスト。
戻ってくるルアーは、
思いのほかはっきりと視認できた。
その様子を見て、これなら、
魚はちゃんと口を使えるはずだと
確信を持てた。
ここから、自分にスイッチが入り、
集中力は急激に高まる。
そして、次のキャスト・・・
無反応・・・
さらに、次のキャスト・・・
やはり、無反応・・・
結局、およそ1時間かけて
このランを丁寧に探るも
生命反応は得られないまま。
ラストチャンスとなる次のポイントに
この日の運命をゆだねることになった。
最後のポイントに到着したとき、
時計の針は、すでに14:30を指していた。
秋の日暮れはつるべ落とし。
熊の移動ルート上にある場所ゆえ、
長居は全く無用である。
足早に河畔林を抜け、
河原で一呼吸置くこともなく
そそくさとウエーディングして、
イトウが定位していそうな
やや水深のあるポイントを射程圏におさめる。
瀬頭から、徐々に下流に向けて
ステップダウンしながら、
ポイントを輪切りにして
丁寧に狙い撃っていく。
ワンキャスト・・・
ツーキャスト・・・
異常なし。
それでも、もしもイトウの目の前を
ルアーが通ることがあったら、
その時、魚が濁りの影響で
ミスバイトすることがないように
集中力を研ぎ澄ませて、
慎重かつ丁寧にルアーを動かす。
モォソ・・・モォソ・・・
ロッドを握る右手に違和感を感じたのは
流速が緩み、反転流ができ始めるあたりに
差しかかった時であった。
すかさず、大きくアワセる。
ルアーが吹っ飛んできた。
増水で流されてきた倒木の枝にでも、
ルアーが接触したか。
でも、魚の可能性も否定はできない。
もう一度、同じ場所にルアーをキャスト。
今度は、さらに慎重に
アクションを付けながらリトリーブする。
プルプルッ・・・
すかさず大きくアワセる。
またしても、ルアーが吹っ飛んできた。
が、間違いなくルアーに触ったのは魚だ。
そう確信した。
イトウがミスバイトしたとき、
「モォソ」とか「プルッ」とかいう感覚が
手元に伝わってくることも多い。
一旦、深呼吸して、
もう一度、同じ場所にルアーを投じ、
さらに繊細なアクションで誘ってみる。
ドン!
思いっきりアワセを入れると、
ヤツは、数回首を激しく振った後、
潜水艦のようにゆっくりと
カケアガリを上流に向かって移動し始めた。
天塩川の重たい流れに逆らって、
上流へ向かって行くくらいだから
悪いサイズではないだろう。
ただ、フッキングの瞬間、イトウの口に
ルアーが吸い込まれる感覚はなかった。
こういう時は、大概、ショートバイトで
掛かりが浅いことが多いので、
いつもより慎重にやり取りをする。
ヒットから数分が経過する中で、
何度かドラグを勢いよく出されたが、
プレッシャーを幾分弱めにしているため、
なかなか魚のパワーが衰えない。
しばらくして、ようやく魚が見えた。
メーターにはだいぶ足りないが、
栄養状態良好な素晴らしいイトウだ。
しかし、同時に、唇にちょこんと
フックが掛かっているだけだから
こちらから強いテンションはかけられない
不利な状況であることもわかった。
ここからしばらく、
イトウとの神経戦が続く。
ジジジジジィーーー
イトウが最後の力を振り絞って
強い流れの中に突っ込む。
何とか耐えた。
今度は、ここが勝負どころとばかりに、
ギリギリのラインテンションで
一気に引き寄せネットインした。
丸太棒のような
ぶっとい体型をしたイトウは91cm。
ネットインした次の瞬間に
ルアーは外れていたから、
まさにギリギリのやり取りであった。
サイズ以上に素晴らしい魚。
これぞ「天塩のイトウ」と呼べるような
見事なコンディションを誇っている。
いつもより時間をかけて
魚をキャッチしたので、
いつもより時間をかけて
魚の体力回復を待つ。
天塩川本流で過ごすこの時間は
何と贅沢なんだろう。
そんなことを思いながら、
時折、イトウの状態を確認。
十分に回復した頃合いを
見計らってからリリースしたイトウは
天塩川の重たい流れの中に
元気に消えていった。
これで帰ろうかとも思ったけれど
もしかしたサイズアップが望めるかもと
一旦、私の心に姿を現したスケベ心は
いっそうエスカレートする方向に。
時間が許す限り、もう少しだけ、
ステップダウンしていくことにした。
それからほどなくして、
次の衝撃がロッドに走った。
だが、前の魚ほどのトルクはなかったので、
早めの勝負を仕掛け、
無事、ランディングに成功。
サイズアップの期待とは裏腹に
サイズダウンの79cm。
こちらも素晴らしい魚だったし、
キャッチできた喜びはひとしおだ。
ただ、少しスマートな体型でもあって、
もしかすると、私は写真撮影中に、
やや微妙な表情を
浮かべてしまったのかもしれない。
そんなこちらの雰囲気を察したか
「私じゃ、ご不満?」とでも言わんばかりに
発達した尾を一気に翻し、
濁りの残る天塩川の水を私に浴びせながら
元気に流れに帰っていった。
ゴメンナサイ、イトウさん・・・。
それにしても、
天塩川という川で起こる事象は
再現性が非常に高い。
一度起これば二度起こり、
二度目があれば三度目がある。
「この水位で、このくらいの濁りのとき
このポイントでヒットした。」
そんなデータを積み上げていくことで
少しでも天塩川の素性に迫れると
私は思っている。
まあ、それでも天塩川のスケールを考えれば、
すべてを知ることなど不可能なのだけれど、
そんな再現性を頼りに
釣りを組み立てていくのも楽しいものだ。
その一方で、再現性の原点が
「偶然」にあることも
決して見逃すことができない真実である。
だから、天塩川は
一部のコアなアングラーにしか楽しめない
気難しい川などではない。
遠征で訪れたアングラーにも、
その「偶然」が
いつ訪れるとも限らないわけだから。
変化のない日常に少し疲れたら、
「天塩川=難しい」という予断を捨てて、
是非、一度は訪れてほしい。
もし、1回のバイトも
得られなかったとしても、
天塩川でロッドを振るだけで
きっと、今まで経験したことのないような
ワクワクを体感できるはず。
天塩川は、それほどの魅力を持った
唯一無二のフィールドだと私は思っている。
(ついつい長くなって、ゴメンナサイ!)