大苦戦のち安堵

前回からつづく)

翌朝は、
今シーズン初の早起き。

若い頃は、朝マヅメに
釣りに行かないなんて選択は
絶対にあり得なかった。

けれども、
オッサンとなった今は、
朝マヅメから行動することのほうが
間違いなくレアケース。

朝2時台に起きて、
まだ薄暗いうちに宿を出るなんて、
せいぜい年に
数回程度のことだろうか。

それでも、
春のイトウに関しては
早朝こそがプライムタイム。

しかも、
日中に予定が入っているとなれば、
普段なら寝ている朝の時間帯を
有効に活用しない手はないだろう。

ただ、いつもいつも
こんな行動パターンを採用するなんて、
体力の低下が顕著なオッサンには
しょせん無理な話。

カラダにムチを打ち
意を決して早出するのも
ちょうど今時季の
春のイトウシーズンくらいのものである。

現地に着くと
ゴボッ、ゴボッという音が……

最近にはめずらしく
早起きした甲斐があったのだろうか?

そう、散発ではあるものの、
イトウのボイル音が聞こえてくるのだ。

おお、これは
間違いなくチャンスタイムの到来!

イトウの
スイッチが入っているうちに
なんとか一本は
仕留めたいところである。

手早く準備を整え、軽く深呼吸。
とにもかくにも焦りは禁物だ。

はやる気持ちを抑え
まずは、自分のリズムを
整えることに注力。

呼吸が落ち着いた頃合いを見計らって、
慎重なアプローチで水辺に近づき、
いつものように
浅瀬にスタンスを取る。

いよいよここから
緊張感みなぎるボイル撃ちの
スタートである。

一投目……

反応なし。

そして、
続く二投目……

やっぱり、反応なし。

自分の感触としては、
魚の目の前にイイ感じで
ルアーが入っているという確信があった。

適度に濁りも入っているし、
時刻はまだ朝の3時台。
空はもう明るくなっているが、
陽の光はまだ差し込んでいない。

にもかかわらず、
なぜこのアプローチで
口を使わないのか?

う~ん、
これはちょっと
まずい展開だな……。

その後も、
断続的にボイルは続いていたが、
正直、最初の入りのところで
リズムを崩したところが
あったかもしれない。

手を変え品を変え
しばらくキャストを続けてみたが、
なぜか、マイロッドに
ドスンという衝撃が伝わらない。

そして、時間だけが
どんどんと過ぎ去っていく。

結局、この日の朝撃ちは、
ただただボイルに翻弄されるばかりで
バイトさえ得ることができないまま
終了の時刻を迎えたのである。

この状況でのノーバイトは
過去を振り返っても
簡単には思い出せないほど。

だから率直な話、
かなり精神的に凹んだ。

ただ、昼間は仕事のお時間。
それがむしろ、
ゲームチェンジャーと
なってくれるに違いない。

この時点ですでに、
そんな暗示をかけるくらいしか
次の一手が思い浮かばないほど
厳しい状況に
追い詰められていたと思う。

仕事の合間を見て、
宗谷岬近くの
てっぺんドームに寄り道。

時にはこんな気分転換も、
非常に大事になってくる。

久しぶりに
この場所に立ち寄ってみたのだけれど、
あらためて眺めてみても
実に宗谷地域らしい景色が広がっていて、
なんとも素敵な風景じゃないか……。

そして夕方、
予定どおりに
フィールドへと舞い戻ってきた。

ヨシ、もう一回集中し直して、
この現状をなんとか
打開してやろうじゃないか。

う~ん、やっぱり
メンタルが後ろ向きではダメ。

厳しい状況の中でも
挑戦者の気持ちを持って
いつでも前向きに行かなきゃね。

こうしてなんとか
メンタルの立て直しには成功したのだが、
フィールドコンディションは、と言えば、
雲ひとつない晴天で
相変わらずの厳しい状態。

そして、
少し傾いた夕方の太陽が
まるで嫌がらせをするかのように
川面を燦燦と照らしている。

ただ、朝とは違い
ひとつだけ前向きな要素もあった。

そう、風だ。

朝は完全に無風状態だったのだが、
夕方になって
イイ感じの風が吹き始めたのである。

そして、
この強く吹き付ける南寄りの風が
その後、最高の
アシストをしてくれたであった。

ヌーー

キャストを開始してわずか5分、
イトウ独特の
吸い込むようなバイトを
きれいに捉えたのだ。

シーズン2尾目ともなると
ファイトも
だいぶ落ち着いたものになる。

決して頻繁に訪れるとは言い難い
燦燦と降り注ぐ太陽光の下での
イトウとのファイト。

この時季にしては
大したサイズじゃなかったけど、
これ以上ないほどの
至福の時間を味わいながら
実に心地のよいファイトを
愉しませてもらった。

いいリズムでファイトできたので、
ネットインもスンナリ。

サイズは87cmと
狙いのサイズには程遠かったけれど、
コイツだって立派なイトウには違いない。

晴天の下で
イトウをキャッチできると、
なにより、
写真撮影が楽チンなのがいい。

こんな表情のアップや……

夕日を浴びて
金色に輝く鱗も……

ストレスなく撮影できるのは、
厳しい時間帯に
イトウをキャッチできたことへの
いわばご褒美みたいなものだろう。

じっくりと回復後、
イトウをそっとリリース。

この魚との出逢いを契機に、
集中力はどんどんと
増していくこととなった。

いい感じの集中力を
手にできたことに気を良くして
さらなる一尾との出逢いを求めたが
残念ながらその後は不発。

厳しい厳しい春の一日は
こうして波瀾万丈のうちに
幕を閉じることになったのである。

大苦戦のち安堵。
これが正直な感想だったと思う。

一尾のイトウを
キャッチできたのは良かったが、
それをもって大苦戦を強いられた事実が
跡形もなく消え去るわけではない。

だからこそ、
歓喜ではなく安堵。

この言葉こそが
もっともしっくりくるのであった。

さて、翌朝でラスト。

幸いなことに
ここまで2本の
イトウをキャッチできていたが
未だ会心の一撃はない。

だから、この時点で
ここまでの展開に
満足していたかと問われれば、
答えはノー。

そう、だからこそ
翌朝にかける強い想いが
心の底から
沸々と湧き上がってきたのだと思う。

そして迎えた
最終日の朝……

そこには、
胸躍るドラマティックな展開が
待ち構えていたのである。

(次回に続く)

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