次の小渓に移動すると、
こちらはV字状の
地形になっている影響か、
河畔の岩盤からは
つららが垂れ下がっていた。
気温はすでに
5℃を越えているが、
日陰の氷が解けることはなく、
何もなかったかのように
次の夜を迎えるのだろう。
そして
この渓の住人は、
いかにもそれらしい姿をした
エゾイワナであった。
この魚、
ツインクルディープの延長戦で、
何の躊躇もなく
一発でバイトしてきた。
バルサの威力、
今さらながら恐るべしである。
今から29年前、
勇んで渓に立っても
こんなペースで鱒たちからの
バイトが得られることは
なかったと記憶している。
当時は、
技術的な引き出しが
圧倒的に少なかったこともあるし、
魚が棲んでいそうな
健全な渓を見いだす嗅覚も
今ほどは研ぎ澄まされていなかった。
もちろん、
ここが北海道の
フィールドであることが
バイトの頻度と
密接にリンクしていることに
疑いの余地はないけれど、
「場所の違い」だけで
変化の理由を説明するのも
正しくはないように思える。
結局のところ、
自らを成長させてくれるのは、
1対1の戦いを
どこまで突き詰められるか、
なんじゃないかな。
どんなに他者との連携や
戦術面を磨いたって、
最後は「個と個の勝負」のところで
相手を上回れるかどうか。
うんうん、
やっぱり釣りとサッカーには
明確な共通点が
存在するじゃないか(笑)
そんなこんな、
自らの人生を
見つめ直しながらの渓歩きも
そろそろ終了の時刻を
迎えることとなった。
そして最後に訪れたのは、
V字状の地形ながら、
なぜか栄養価の高い水が流れる
お気に入りの川だ。
こちらの渓も
河畔の岩盤には
氷の塊がまだ残っている。
陽の光を浴びて
氷の塊がキラキラを輝くさまには、
いつでも
心が癒されるんだよな……。
そして、
この渓でのファーストヒットは、
未成熟のヤマメであった。
この渓は隣接する渓よりも
常に水温が高いので、
この時季のヤマメでも
真っ黒な姿にはなりにくいのが特徴。
もちろん、
未成熟の個体であったことも
コンディションが良い
理由のひとつではあるだろう。
……にしても、
12月の北海道で
釣れるヤマメとしては
やはり特殊な部類に
入ってくるんじゃないかな。
ここから、
期せずして
ヤマメラッシュが
続くこととなった。
時期が時期だし、
アフターの個体も混じっていたので、
本来なら彼らは
積極的に触るつもりのなかった魚たち。
よって、
パッと写真を撮って、
パッとリリースするを繰り返す。
最後に、
エゾイワナとヤマメの
コラボ写真を撮りたかったので、
先にエゾイワナを
狙い撃ちしてキャッチ。
手際良くフックを外し、
あらかじめ用意しておいた
即席のいけすにそっと放った。
うんうん、
こういう釣りは
バーブを潰した
シングルワンフックで挑むに限る。
そうそう、
29年前なんて、
バーブレスのシングルフックなんて
釣具屋さんには
置いてなかったっけな。
バーブ付きフックの
バーブを自ら潰して使うという発想も
当時、スッとは
出てこなかったし……。
そして
その次のキャストで
シンプルなアプローチから
ヤマメをキャッチ。
最初のエゾイワナを
釣るところから
この写真を撮るまでにかかった時間は
およそ1分ほどだったと思う。
バーブレスフックじゃなかったら、
ここまで手際よくやるのは
まずもって無理。
釣りをしている時点で
魚たちに負荷をかけている事実は
何も変わらないのだけれど、
彼らとの接し方について
昔とは比べものにならないレベルで
真剣に考えている
自分がいるのもまた確か。
これもまた、
29年という時間の重みと言えば
そうなのかもしれない。
こうして、
人生を見つめ直す釣り旅は終了。
正味、4,5時間の
日帰り釣行ではあったけれど、
とても充実した
時間を過ごすことができた。
過去の失敗から学び、
学んだことを今、体現できているかと
自分自身に問うてみると、
思いのほか
できている部分もあるんだなと……。
でも、
「ドーハの悲劇」を
「ドーハの歓喜」に
変えてしまうほどのインパクトは
当然あるはずもない。
いろいろと
批判されることもあるけれど、
「ポイチ」と呼ばれるその男は、
やはりホンモノの勝負師なのだ!
そんなことを
ひとり想いつつ、
慣れない雪道にビビりながら
帰路に就いたのであった。