(前回から続く)
夜は、温泉で羽を伸ばし、
ベッドで熟睡。
普段の出張やら
釣り旅ではありえない
ささやかな贅沢を愉しむ。
翌朝は、
日本最北のマックで朝食を買い込み、
ちょっとまったりとした雰囲気で
国道40号線を南下。
前夜、温泉に浸かりながら練り上げた
一夜漬けのプランに沿って、
天塩川下流部に位置する
期待のポイントへと車を走らせた。
そのポイントは、穴場というほどの
隠れたスポットではないものの、
いわゆる人気ポイントでもない。
長く天塩川に通い続ける中で、
過去、先行者がいたことは
たった一度しかなかった。
ところが・・・である。
川への入り口にある
1台分の駐車スペースには
すでにアングラーの車が停まっていた。
う~ん。困ったな。
かなりの想定外ではあったが、
仕方がないので
次なるポイントへと向かうことにする。
実は、プランを練っていく中で、
前日の状況を客観的に整理していくと、
もし、魚に出逢えるとすれば
まさにそのポイントであって、
他のポイントは、
にわかに期待薄であるというのが
自分なりの結論であった。
だから、2カ所目の用意はあったものの、
正直なところ、
プランは骨抜きになったも同然。
案の定、次のポイントでも、
その次のポイントでも、
生命反応を得られないまま、
その時すでに、時刻は
13:00を回ってしまっていた。
その時点で、自分の中の引出しは
すでに空っぽの状態。
万策尽きた感もある中、
唯一、手掛かりがあるとすれば、
前日の状況から、
魚の着き場にはっきりとした傾向が
見えていたことだった。
その傾向とは、
魚がいるところといないところは
普段以上に極端に分かれていて、
いるところには、イトウもアメマスも
ほぼ同居状態だということ。
確かに、前日、
あれだけの爆釣劇を見せたアメマスも
一カ所集中型での連発を
何度か繰り返したものであって、
どこでもかしこでも
ヒットしてきたわけではなかった。
そしてもう一つが、
魚がいるところに共通する
“適水勢” のスイートスポットが
極端に狭かったということ。
まさに、核心はここにありと
私は睨んでいたのだ。
ちなみに、”適水勢” という言葉に
なじみの薄い方もいると思うので、
ちょっとだけ、触れておきたい。
自分の記憶が確かならば、
“適水勢”という言葉を
釣りの世界で最初に使ったのは、
東北のヤマメ釣りの名手、
伊藤稔さんだったと思う。
“適水勢”とは、簡単に言えば、
魚がもっとも心地よく
定位できる場所のこと。
だから、”適水勢”に一定の傾向はあるが、
時期によっても、魚種によっても、
魚の大きさによっても
“適水勢”には違いがあるのである。
エサ釣り師の世界では、
“適水勢”という言葉が
ある程度、普及している印象はあるが、
ルアーアングラーから
その言葉を聞いた記憶は
いまだかつてない。
釣りのスタイルの違いも
影響しているのかもしれないが、
この”適水勢”という考え方は
ルアーフィッシングの世界でも
もちろん通用する。
実際には、
“適水勢”という言葉を使わずとも
その日の魚の着き場を意識している
ルアーアングラーも
たくさんいるのだと思う。
けれど、”適水勢”という言葉を
あえて意識することで、
見えてくる景色が
いままでと違ってくるんじゃないかと
個人的には思ったりもする。
さてさて、
もし、私の仮説が的を射ていて、
“適水勢” のスイートスポットが
極端に狭い状況だとすれば、
いかに広大な天塩川とは言え、
魚と出逢えるチャンスのある場所は
かなり限られるはず。
これが、
唯一、拠りどころにできる
手がかりではあった。
ただ、水位や先行者の状況を見れば、
条件に合致したフレッシュなポイントは
残念ながら見当たらない。
そうした状況の中で、
何かが起こる可能性があるとすれば
いったいそれはどこなんだろうと
天塩川の流れを遠目に見ながら、
しばしの間、熟慮することになった。
結局、出した結論は、
前日、魚が付いていた場所に
もう一度入り直すこと。
2日続けての気温上昇に伴って、
雪どけの影響で
川の水位も少しずつ上昇していたから、
もしかすると、
状況がリセットされている
可能性だってなくもない。
そんな徳俵に
足がかかったような状態で、
目的の場所へと急いだ。
目的の場所に着いた時、
幸いなことに、
そこに先行者の姿はなかった。
やっぱりここは、
不人気ポイントなんだな。
残された時間も少ないので、
いつもよりも少し速足で
“適水勢”が存在する場所へと向かう。
狙いを付けたのは、
前日は触っていなかったスポット。
前日よりも3cmほど
水位は上がっているが、
見た感じの雰囲気は悪くない。
早速、キャストを開始。
魚が定位しているであろうスポットを
意識しながら、
丁寧にミノーをトレースする。
・・・が、
期待に反し、魚からの反応はない。
う~ん、”適水勢”よりも
ちょっとばかり
カレントが強いかもしれない。
そこで、2、3歩ほど立ち位置を移動し、
少しだけ流速が遅くなったスポットに向け
ミノーをキャストしてみる。
ゴン!
ついに、
この日初めて訪れた
魚からの反応を捉えた。
・・・が、
残念ながらフッキングには至らず。
再度、同じコースを流してみるが、
再びバイトが訪れることはなかった。
「なんでフッキングしないかなあ~」
その瞬間は、確かにそう思った。
けれども、少し冷静に考えてみると、
どうやら自分の仮説が
間違ってないとわかったことは
何よりも大きい。
後は、時間が許す限り、
歩ける範囲の”適水勢”を
ひたすら撃ち続ければいいのだ。
これで、やることははっきりした。
迷いがなくなった瞬間、
人間の集中力は
驚くほど研ぎ澄まされるのだから、
本当に面白い。
ヌ~
ブン、ブン、ジィーーーー
そんな明らかにイトウとわかる
反応を得るまで、
あれから5分も経っていなかったと思う。
天塩川の重たい流れに翻弄され
ちょっとした格闘を強いられる。
本流イトウの粘り強いファイトに
こちらも次第に乳酸が溜まり始め、
予断を許さない状況がしばらく続いた。
一進一退、
そんな状況が
5分近く続いただろうか。
だいぶ苦労させられたけれど、
なんとかランディングに
持ち込むことことができた。
長さよりも太さが強調された
見事な魚体。
そりゃー強いわけだよね。
長さは90cmジャスト。
ビックリするような
サイズでもないんだけれど、
このクラスの魚としては
最高のクオリティを誇っていたから、
自分としては大満足。
この日は、
朝からうまくいかない時間が続き、
ノーフィッシュが
目の前にちらつく状況に
なっていたこともあって、
久しぶりにテンションが上がった
瞬間でもあったかな。
今年の天塩川も
シーズン最終盤を迎えている。
さてさて、次はあるのかな。
この後、大雪が降ったり、
寒波が襲来したりすれば、
その時点で、The End。
冬将軍さん、
もうちょっとだけ
シベリアでのんびりしていていいよ。
あと1日でいいから、
天塩川に
エントリーさせてくれ~(笑)