ブルックトラウトと生物多様性

前回からつづく)

ひとつ目の渓を後にして
車で向かったのは、
集落の中を流れる小渓流。

初のエントリーとなるが
見た目の雰囲気は
悪くなさそうだった。

そころが、
5分、10分と渓を歩いても
一向に魚からの反応がない。

こちらの存在に驚き
慌てて逃げていく魚も見かけないから、
おそらく魚影が薄いのであろう。

すぐにそう判断して、脱渓。
あらかじめ想定していた
3カ所目の渓へと向かうことにした。

目指す次の渓は、
何を隠そう
およそ四半世紀前に、
ブルックトラウトが偶然ヒットした
思い出の地だ。

記憶をたどりながら
ようやく行きついた
当時とまったく同じ場所。

なんと、そのピンスポットで
今回の最大サイズとなる
ブルックトラウトが
ガツンとヒットしたのである。

サイズはというと、
惜しくも、40cmには
少しだけ足りなかった。

それでも、
背ビレの虫食い模様は明瞭で…

尾ビレに上部にも、
しっかりと虫食い模様が入っている。

横位置で撮影すると
ピンク色の斑点が
青色でコーティングされている様子も
こんなふうにくっきり。

う~ん、この姿、
かつてこの場所でヒットした魚に
確かに似ているな。

ヒレがオレンジではなく
うっすらとピンク色を
帯びているところなんかは
当時の記憶と完全に重なる。

四半世紀の時を超え
当時とまったく同じ場所で
似たような
ビジュアルの魚が釣れたことは
この時、純粋にうれしかった。

そう、この時は、であるのだが…。

晩秋の北海道は日没が早いから、
残された時間も短い。

入渓早々、すぐに
一尾をキャッチできたこともあり、
深追いはせず
次の渓へ向かうことを選択。

すぐに車に戻って、
事前にリサーチしていた
目的の渓へと向かった。

初エントリーとなるその渓は
規模は小さいながらも変化に富み
いかにも多くの鱒を
育んでいそうな雰囲気を漂わせていた。

期待感満点の中、
ピンスポットめがけて
そっとミノーを送り込む。

すると、即座に黒い影が走り、
ド派手な魚体が
勢いよく水面を割った。

幸先の良い、ヒット!

手早くネットインして、
その魚体を眺めると……

ん!?

この魚、何???

ひとつ確実に言えるのは、
ブルックトラウトの
遺伝子が組み込まれているということ。

それは、背ビレの虫食い模様に
はっきりと表れている。

だが、体側の斑点には
あまりブルックぽさがない。

また形状こそ異なるが、
明るめのオレンジ色だけを見れば
まるでヤマトイワナのよう。

まあ、いくら何でも
それはないだろうから
おそらくオショロコマの
遺伝子が入っているのであろう。

ただ、色を抜きにして
斑点の形状だけに
フォーカスするとすれば、
オショロコマというよりも
むしろエゾイワナ。

その魚体を見れば見るほど、
いよいよ訳が
分からなくなってきたのだ。

本当は、ブルックを
一尾でもキャッチできたら、
この日の釣りを終了する予定だった。

でも、こんな
おかしな姿態の鱒を見てしまったら、
どうしたって、
もう一尾釣ってみたくなる。

幸い、魚影が濃かったので、
すぐに、その希望は叶ったのだが…

いや~、
コイツも明らかにおかしい。

とりあえず、
いけすに入れておいた
先ほどの魚と並べてみる。

まず、はっきり言えるのは
2尾のビジュアルが
確実に違っているということ。

そして、2尾目のほうは、
全体の雰囲気はオショロコマなんだけど、
写真ではちょっとわかりにくいが
背ビレに虫食い模様が入っているし、
体側の斑点の色なんかは、
何やらブルックトラウトっぽい。

これは、もうカオスだ!

2尾目のほうは、
そのビジュアルからして、
オショロコマとブルックトラウトの
ハイブリッドなのだろう。

でも、じゃあ、
最初の魚は何なんだ???

いよいよ、
頭の中が混乱してきた。

ということで、
この日の釣りは終了。

もう一回、頭の中を整理してから
この川にエントリーしよう。

そのことだけを心に誓って、
現場を後にすることとなった。

今回の釣り旅で
はっきりとわかったことは3つ。

富良野の渓には
ブルックトラウトの
遺伝子を持った個体が
まだまだたくさん
棲息しているということ。

そして、そこでは
在来種と外来種の交雑が
当たり前のように
行われているということ。

さらには、
「F1は生殖能力を持たない」
という学説が、
もしも普遍的なものであるとしたら、
このあたりの渓に棲む
オショロコマやブルックトラウトは
すでに絶滅していないと
合理的な説明がつきづらいのだけれど、
実際にはそうなっていないこと。

元来、僕は
北海道の固有種を溺愛しているが、
だからと言って、
外来鱒に対する
変な差別意識は持っていない。

また、生物多様性に関する
一定のルールは必要かもしれないが、
ブラウントラウトやニジマスが
在来種を完全に駆逐してしまうほどの
現実的な脅威であるとまでは
これまで考えてこなかったし、
今も、その考えに変わりはない。

けれども今回、
富良野の渓で目の当たりにした現実は、
ことブルックトラウトに関しては、
ブラウントラウトやニジマスと
同じ「外来種」というくくりで
考えていいのかという疑問を
僕に問いかけてきたのだと思っている。

つまり、もし道内のあちこちで
ブルックトラウトの
乱放流が行われたとすれば、
あくまでも理論的には、だが、
純血のオショロコマやアメマスの血が
あっという間に
途絶えてしまうような悪夢だって
あながち、起こらないとも
言い切れないということだ。

かつて、
生物多様性などという言葉が
まだ一般化されていなかった時代、
本州のあちこちの水系で
ニッコウイワナの源頭放流が
行われていたと言われている。

その結果、
今日になって、
純血のヤマトイワナが
絶滅の危機に
瀕することとなったわけだ。

ただもちろん、
源頭放流を実行していた本人たちは
きっと良かれと思って
やっていたに違いない。

そう、彼らに
悪意はなかったというところが
逆にとても恐ろしいのである。

ならば、
北海道内を流れる渓流の源流域に
良かれと思って
ブルックトラウトを放流しようとする人が
絶対に現れないとも限らない。

つまり、一歩間違えれば、
北海道のオショロコマやアメマスにも
ヤマトイワナを襲ったのと
同じような悲劇が降りかかるのかも。

そんなことを考えていたら、
なんだか純粋に
恐ろしいなと思ってしまったのだ。

ただし、道東の西別川では
ブルックトラウトが
当地に移入されたとされる日から数えて
80年以上もの月日が経過した今日でも、
ブルックトラウト、
オショロコマ、アメマスの3魚種が
それぞれ種の独立性を
保っているものと理解している。

とすると、
富良野地域を流れる空知川の支流で
「魚種の判定ができない魚が釣れた」
というたった一事をもって、
わーわー言うのは
決して正しいこととは思えない。

あれこれと言うには、
いかにもサンプルが少なすぎる。

ということで、
これからも機を見ては、
富良野の小渓流に
出かけてみようと思う。

そうすれば、
きっと、何か新しい
発見があるに違いない。

わーわー言うのは、
それからでも遅くはないだろう。

"ワクワク"のち"モヤモヤ"。

そんな波瀾万丈の一日は
こうして幕を閉じた。

富良野地域は、
これから本格的な冬を迎えることになる。
よって、再訪は来年になるだろう。

次は、どこ?

え~と~、来週あたり、
そろそろ天塩川にでも
刺さることにしようかな!?

だって、
あんまりモタモタしていると
川が凍って、
イトウ釣りシーズンが
一気に終わっっちゃうからね(汗)

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