心動かす麗しき鱒

どこの川へ行っても
熊、熊、熊……

心休まる瞬間が
少なかった一日。

その中で、
実は、お昼の一刻だけ
アドレナリンが
ドバっと放出される瞬間があった。

それは、
目に見えない
熊の恐怖におびえながら、
恐る恐るエントリーした
海沿いの小河川での出来事。

そこは、
はじめての川。

だから、そこに
どんな鱒が棲息しているのか、
それともまったく
棲息していないのかもわからない。

そんな
不確定要素だらけの状況。

ところが、
人の心が大きく動くような
意図せぬ出逢いって、
こんな状況の時にこそ、
しばしば起こるから不思議だ。

地図で確認すると
その川は流程も短く、
中流域には砂防堰堤もあって、
これといって
目立ったところのない小渓流。

ところが、
河畔に一歩足を踏み入れた瞬間、
川の環境が
極めて健全に保たれていることに
すぐに気づけるほど、
いわゆる「イイ川」だったのだ。

だから、
この川に鱒がいないとは
到底思えない。

直感的に
そう思ったのは、
間違いなかったのである。

入渓点は、
誰もが「そこから入るよね」って場所。

近くに民家があって、
脇の道路では電気工事を
やっているようなところ、である。

にもかかわらず、
一投目から、魚の反応が……

サイズこそ
17cmくらいだったけど、
いかにも小渓流の住人っぽい
腹がオレンジ色をしたエゾイワナだ。

まあ、川の規模からすれば、
サイズはこんなものだろう。

でも、ここは、
エゾイワナの川なのかな?

雰囲気的には、
十分にヤマメも
棲んでいそうだけれど、
さて、どうなんだろう。

そんな疑問を抱きつつ、
やや上流へと歩を進め、
ちょっとした深みに向けて
無造作にルアーを放った。

すると、
着水から数秒後にバイト!

ローリング系の
独特のファイトから
その魚がヤマメであることは
すぐに理解した。

しかも、
それなりにトルクがあって、
ヤマメの中では
今年一番のサイズであることを確信。

慎重なファイトで
寄せてくると……

えっ?????????

思わず、
一瞬、声を失ってしまった。

なに、なに、なに、なに、、、

この魚、
アマゴじゃないの!?

後に、これが
誤解であることが判明。

けれども、その魚は、
誤解するのも仕方ないって
自分で思えるくらいの、
そんな独特の
姿態を見せつけてくれたのである。

その魚の正体が、コレ!

サイズは、
27~28cmで、
北海道のヤマメとしては
かなりの大型の部類ではあるが、
パッと見た感じでは、
普通のヤマメじゃんと
思われてしまうかもしれない。

まあ、大きさだけに
焦点を当てたとしても、
クオリティーフィッシュには
違いなかったと思う。

だが、確かに
突き抜けた感はない、
普通の良型ヤマメ。

でも、僕にとって
フォーカスすべきは
そこではなかった。

とにかく、
ビビッドなこの発色が
心を大きく揺さぶったのである。

ファイト中、
なぜ、この魚をアマゴであると
錯覚したのか?

この写真をみれば、
おそらく多くの方が、
誤解するのも仕方ないよね、と、
思ってくれるはずだ。

たまに、側線近辺が朱色をした
ヤマメに出逢うことはあるけれど、
ここまでビビットな発色は、
正直、見たことがないかもしれない。

ヤマメとアマゴの境界に位置する
伊豆半島の渓などでは、
この魚に雰囲気が似た
個体に出逢うこともあったが、
さすがにここまでのビビット感は
なかったと記憶している。

この時ばかりは、
熊のことなど完全に忘れ、
思わずこのヤマメに
見入ってしまったのは言うまでもない。

いやはや、
この一尾に出逢えたら、
もう文句はない。

そう断言してもいいくらい
心動かす麗しき鱒だったと思う。

ここで、ふと我に返り、
この川ではまだ
たった2キャストしか
していないことを思い出した。

う~ん、絶対まだいる。

そう、
そんな確信めいたものが
あったのは事実だと思う。

手づくりのいけすに
ヤマメを残したまま、
もう一度、
目の前の流れにルアーを投じてみる。

すると、
着水するとほぼ同時にヒット!

サイズアップは確実だったが、
バイトの瞬間が丸見えだったから
その魚が
エゾイワナであることは確定。

そりゃあ
ヤマメだったら最高だけど、
そう簡単にグッドサイズが
連続ヒットするはずもない。

浅瀬に誘導して、
サッとフックを外し、
ワンカット、パシャリ。

ここで、
今こそ理想の
タンデム写真が撮れる
チャンスであることにふと気づく。

慎重にエゾイワナを
さっきのヤマメが
泳いでいるいけすに運び、
今度は2尾並べてパシャリ。

いや~、
なんて贅沢な
2ショットなんだろう。

イトウの神々しさ、
ミヤベイワナの神秘的な姿も最高だけど、
このショットだって
決して負けてはいないはずだ。

これは、
真昼間のひとときに起こった
夢のような出来事。

でも、まあ、
いつもいつもこんなことが
起こるわけじゃないからこそ、
心も大きく動くんだけどね。

いや~、
ホントホント、
彼には感謝だわー。

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