人生を見つめ直す釣り旅(1)

週中、しばらくぶりに
プライベートフィッシングへと
出かける貴重な時間を得た。

天塩川は、
例年以上の
雪と寒さに見舞われており、
無理な出撃は事故のもと。

ならば、
先日解禁になったばかりの
洞爺湖にでも……
と一度は考えたのだが、、、

結局、向かったのは
海に面した
過疎地にひっそりと佇む
エゾイワナメインの単独河川。

フィールド選びの
決め手となったは、
「在来種と共にする時間を愉しみたい」
というその一心。

そうそう、
特に意識したわけではないけれど
サッカーW杯の
日本代表に感化されたところは
間違いなくあったのだろう。

「お前に愛国心はないのか!」と
何度も揶揄されたことがあるくらい、
いわゆるナショナリズム的思想とは
大きく距離を置く私なのだが、
どうやらサッカーだけは別物らしい。

せっかくのタイミングなので、
今日は本題に入る前に
サッカーの話題に
少しだけ触れておこうと思う。

釣り人が描く
サッカーコラムに興味のない方は、
全文スルーして
読み飛ばしてくださいませ。

——————————————–

はじめてここで
カミングアウトする。

実はわたくし、
これまで29年間、
あの「ドーハの悲劇」を
ずっと引きずって生きてきた。

あの日以来、
代表戦をテレビで観る時は
いつも画面の前で
身体の震えが
止まらなかったほど。

「ドーハの悲劇」は、
私にとって
それくらいショッキングな
出来事だったのだ。

もちろん、
あの29年前のイラク戦を
夜中にテレビで観戦するまで、
「サッカーの試合を観るのが怖い」
などと思ったことは
ただの一度もなかった。

ところが……

試合は、
2対1で日本代表がリード。

後半35分過ぎ
当時、監督を務めていた
ハンス・オフトが
選手交代に動く。

「中山に替えて武田!」

えっ、
マジか?????

なんで、
北沢じゃないんだ!

オフト、
おい正気か!!!!!

マジ、もう~、
ふざっけんなよーーー!!!

当時まだ若かった私は、
テレビ画面に向かって
何度もそう叫んだことを
今でも鮮明に覚えている。

この後の経過は
いくつかのサッカー関連サイトに
掲載されているので省略するが、
私のトラウマが始まったのは
まさにこの瞬間のことだった。

そして、
あの「ドーハの悲劇」は起こった。

あの事件以来、
自分では何もコントロールできない
サッカーの代表戦を
平常心で観戦することが
できなくなってしまった。

そう、
あの交代シーンが
私にとってのトラウマの
はじまりだったのである。

そして月日は流れ、
つい先日、
遂にその瞬間は訪れたのであった。

あれから29年か……。

いや~、
本当に長かったな……。

W杯カタール大会スペイン戦、
2対1と日本代表が逆転し
試合は後半の
勝負どころに差し掛かっていた。

その時、
あの日、ドーハの地で
ピッチに立っていたその男は、
交代のカードを
次々と切って行く。

「鎌田に替えて冨安」

「田中碧に替えて遠藤」

どちらの選手交代も、
実に合理的な最善策。

そしてピッチに
送り出された選手たちは、
自らの役割をしっかりと理解し、
それぞれのポジションで
チームのために
全力でファイトしている。

そう、29年前に観た
あの日の景色とは
監督も送り出された選手も
そのすべてが違っていたのだ。

このシーンを観た時、
私は不覚にも
テレビ画面の前で
溢れ出る涙を
止めることができなかった……。

監督と選手が心をひとつにして
必死にファイトしている。

「ドーハの悲劇」は
決して無駄ではなかったんだ!

29年の時を経て、
はじめて心の底から
そう思えたのが
あの瞬間だったのだろう。

スコアは2対1。

もしも1点獲られれば
次のステージに進めないのは
29年前のあの時と
まったく同じシチュエーションだ。

それでも
不思議なことに
こうも思っていた。

たとえ追いつかれても、
監督と選手がやるべきことを
すべてやってくれたのだから、
もうそれでいいじゃないか。

それから数分後、
あの男は
29年前に起こった悲劇を
見事、歓喜に変えてみせたのだった。

スゲーよ、ポイチ!
マジで救われたぜ!!!

アラフィフのオッサンが
早朝にテレビ画面に向かって
独りそうつぶやく。

客観的に見れば
「キモい」以外に形容する言葉が
見つからないけれど、
本人的にはただ純粋に
すがすがしい気持ちだったな……。

——————————————

はたして自らの釣り人生は
この29年間で
確実に進歩しているのだろうか。

出発前、
なんとなく
それを確かめたくなった。

そう、やはり
森保ジャパンの
見事な戦いぶりに
触発されたのは間違いないらしい。

ならば、
今日のターゲットは
自らの釣りの原点とも言える
イワナやヤマメがいい。

そんな思いから、
洞爺湖とは違う方角へと
ハンドルを切ることに
なったのであった。

北海道は広い。

最初に向かった小河川は
まだ雪に覆われてはいなかった。

パッと見、
フィールドの景色は晩秋。

これならまだ、
反応してくれる魚がいるかも……。

到着早々、
そんな感触が得られたのは
ある意味
ラッキーだったのかもしれない。

とはいえ、
これは釣り人生を
自ら見つめ直す釣行だから
正直、釣果は度返しでよかった。

小手調べとして
29年前によく使っていたセルタを
ナイロンラインに結び
分流の大木の根に
ついているであろう鱒を狙ってみる。

すると、
一発で喰ってきた。

その雰囲気から、
居付きと言うよりは
一度は海に降った
アメマスなのであろう。

29年前に
得意としていたセルタの釣り、
これはこれで
やはり愉しいもの。

若い時に
身につけたスキルって、
年を重ねても
意外にちゃんと
覚えているものなんだよな……。

今度は川を変えて、
イエローフィンが鮮やかな
アメマスを狙ってみる。

ルアーは
ツインクルディープ。

ミノーイングに
強く興味を持つようになった頃、
小渓流で頻繁に
使っていたアイテムだ。

すると
こちらのターゲットも
さほど苦労することなく
姿を見せてくれた。

う~ん、
やっぱりイエローフィンの
アメマスは美しい!

素直にそう思えるほど
惚れ惚れするような魚体。

ツインクルディープ、
この釣りも
なかなかどうして
愉しい釣りじゃないか。

あらためて
そう気づかされる
瞬間だったかな……。

これまで
あまり意識することはなかったが、
こうやって過去を振り返りながら
人生を見つめ直す釣り旅も
なかなかいいものだ。

そんなことを思いながら、
すぐに次の河川を目指す。

その川の渓相は、
昔よく通った関東のフィールドとも
なんとなくだが共通点がある。

さて、
次は何のルアーを使おうかな……

(次回へとつづく)

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