一旦宿に戻って
軽く休息をとり、
再び湖へと向かおうと
部屋を出たのは
ちょうど正午をまわった頃のこと。
宿の玄関を
一歩外に出ると、
朝の雲ひとつない晴天は
いったいどこへやら。
北寄りの風によって
山から運ばれてきた風花が
ひらひらと
舞っているではないか。
おお、
今の時代、
天気予報の精度は
捨てたもんじゃない。
よしよし、
この条件をもらえれば、
最後の最後に
ワンチャンス訪れるしれないぞ!
湖畔に戻ると、
そこにアングラー姿はなく
ポイントは完全に
本来の静けさを取り戻していた。
そして、
「湖のコンディションは?」
といえば、、、
北寄りの風により
湖面は激しく波立ち、
朝の快晴・無風状態から
まさに状況が一変。
うんうん、
これでバイトを得られないのなら
スッキリと
あきらめもつくだろう。
風向きと風の強さは
これ以上を望めないほど理想的。
さらに
ローライトコンディションまで
もらえたのだから、
これでダメなら言い訳無用だな……
けれども、
釣りを始めて1時間ほどは、
相も変わらず
何もない時間が続くこととなった。
ただ、
これだけの状況をもらえている以上、
たった1時間
何もなかったくらいで
簡単に集中力が途切れることなんて
あろうはずがない。
魚は絶対に
この場所へと回ってくる。
そんな確信を胸に秘め、
一心不乱に
ロッドを振り続ける時間は
その後もしばらく続くこととなった。
ドッシャーーーーン!
それは、
本当に突然の出来事であった。
少し離れたところで
キャストを繰り返していた
カミさんのいる方角から、
いきなり激しいジャンプ音が
耳に飛び込んできたのは。
そこから、
背中に担いでいた
柄が長いタイプのラバーネットを
サッと取り外し、
ランディングサポートへと急ぐ。
「これでもか!」と
防寒着を着こんだオッサンが
ネオプレーンを履いて湖畔を走るのは
かなりキツかったけれど、
なんとか間に合ったようだ。
おお!
これはイイ魚じゃないか!!
昨年末は、
年末釣り納め釣行を始めて以来
初のニジマスキャッチならず
だったわけだから、
これがちょうど2年ぶりの
屈斜路ニジマスとの出逢い。
しかもそれが
50台半ばの立派なイケメンとは、
こりゃたまらん!
そうそう、
キャッチしたのが自分じゃない…
というところ以外は、ね……(苦笑)
こうなると、
ムードは完全にイケイケ。
次は自分が
ニジマスをキャッチして、
悪天候になる前に
早めに引き上げて帰ろう。
軽々しく
そんな算段をしていたのだが、
実はそれが甘かった。
残念なことに、
次なるヒットは
狙いどおりこちらに……
とはならなかったのである。
キャストの合間に
ふとカミさんの方向へと目を遣ると、
またしてもロッドが
大きく弧を描いていたのだ。
そしてまた、
足場の悪い湖岸を走る、走る!
なんとか現場に到着し
無事ランディングの準備が整っても、
湖底に張り付いて
なかなか姿を見せない相手。
ジィーーーーー
ジジジジジィーーーーー
当の本人は
気づいていないようだったけれど、
傍から見ているこちらは、
一本のラインで
つながっている相手が
相応の大物であることをすぐに確信。
気温は氷点下。
ファイト中もすぐにガイドが
凍てつく状況であることを踏まえれば、
多少強引でも
早めの勝負に出たほうがいい。
そう判断し、
魚が浮いた
一瞬のタイミングを見計らって
ネットインを試みる。
エイ!!
ヨシ、
入った、入った!
いや~、
これは参りました。
もしも私と同じ立場で
その場にいた
トラウトアングラーなら、
誰しもがそう思ったことだろう。
下あごは
完全にしゃくれ上がり、
これぞワイルドトラウトという
威風堂々としたいで立ちだ。
そして
このほお紅の
鮮やかさといい、、、
オスという
性別を特段に際立たせる
この独特の表情、
そしてセッパリ具合といい、、、
まさに
非の打ちどころがない
「完全無欠の魚体」と表現しても
いいのではないだろうか。
長さは、
ザックリ60台半ば。
ただそれ以上に
体高と魚体の厚みが見事。
まさにコイツは、
「スーパーレインボー」と
呼ぶにふさわしい
個体だったんじゃないかな。
こうなると、
あとは自分が
やるべきことをやればいいだけ。
正直、
どっちが釣ってもいいと言えば
その通りなのだけれど、
できることなら自分だって
2年ぶりとなる屈斜路ニジマスを
手にしてから帰りたい。
そこからは、
半ばその気持ちだけで
一心不乱に
キャストを続けていた気がする。
そして、、、
ゴン!
ロッドを握る右手が
そんなベタすぎる衝撃を感じたのは、
風に乗せて遠投したルアーが
着水した直後のことであった。
ドッシャーーーーン!
ドッシャーーーーン!!
ドッシャーーーーン!!!
そんな激しい
スーパージャンプ3連発を
見せてくれた相手は、
なかなかのファイターであった。
バレやしないかと
少しヒヤヒヤはしたけれど、
この秋は何度も
大型のニジマスに遊んでもらっていたので、
精神的には余裕十分。
しばしのファイトを経て、
無事、ランディング成功!!
おお、
この魚は回遊系の銀ピカだ。
尾ビレにさした
輝かしい銀色が
実に美しいじゃないか。
でも、
別の角度から
よ~く尾ビレを観察してみると、
かつてヒレの上下が
少し欠損していたことを
うかがわせるような痕跡が……
うんうん、
これは成魚放流魚が
湖で巨大化した奴に違いない。
すぐにそう
悟ることとなったのである。
でもね、
よくここまで
厳しい自然の中を生き抜いて、
ビジュアルを回復させたものだよな……
自然にそうも思った。
そうそう、
この屈斜路湖という巨大な水たまりは、
人間の介入なしに
トラウトフィッシングフィールドとして
継続させるのがとても難しい場所。
それを踏まえれば、
いろいろ思うところはあれど、
「あー、ガッカリ」のひと言で
片付けるのはちょっと違う。
ザックリ60台半ばという
魚のサイズ感とは
あまりに不釣り合いな幼い表情、
頭の形、そして
屈斜路ニジマスらしからぬ
ほっそりとした体形を眺めつつ、
ふとそんなことを
考えたりもしたかな……。
そんなこんながあったけれど、
一応、屈斜路ニジマスとの
再会と果たすことができて
ひとまずは大満足。
返す刀で
久々にランドロックサクラマスも
無事ランディングし、
期待以上の成果を残して
意気揚々と湖を後にすることとなった。
いや~、
適条件をもらえれば、
屈斜路湖は
まだまだ生きている。
それがわかったのは
大きな収穫だったけれど、
ここまでニジマスのサイズが
大きくなっていることから想像するに、
おそらくかつてのような個体数が
湖にいることはほぼないと
断言していいのかもしれない。
この先、この湖は
いったいどっちの方向へと
向かって行くのだろうか。
2023年〆の釣行は、
あれこれと考えさせられることの多い
釣り納め釣行に
なった気がしている。
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読者のみなさまへ
ちなみに
最後のランドロックサクラマスは、
魚体のサイズやビジュアル、
釣れた時期を勘案し
「ランドロック」と判断したものです。
よって、
屈斜路湖で釣れたサクラマスを
すべてランドロックであると
断定しているわけではありませんし、
ブログへの掲載は
あくまでも自己責任として
やっているものなので、
その点をくれぐれも正確に
ご理解いただけたら幸いに存じます。
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