夢の続き

翌朝、ホテルを一歩外に出ると、
夜明けから、まさかの晴天無風。

朝焼けの星空が、何とも美しい。

もちろん、それは、
こちらが期待する状況とは大きく異なる。

それでも、フィールドに着けば
少しは違う状況が
待っていてくれるかもしれないと
淡い期待を抱きつつ、車に乗り込んだ。

期待に反し、フィードに到着しても、
状況に変化はなかった。

前日は賑やかだった川面も
この日ばかりは、生命感に乏しい。

膨らんでいた大きな期待は、
一気にシューっとしぼんでいく。

それでも、
フィールドのポテンシャルを信じて、
めぼしいポイントにルアーを撃ち込む。

が、魚からの反応はまったくない。
肌感覚は、間違っていなかったようだ。

しばらくキャストを続けてみたが、
何事も起こらないまま、
ルアーは手元に戻ってくる。

こうして、今回の遠征最後の朝は、
静かに過ぎ去っていった。

宿に戻り、少しだけ仮眠を取って、
チェックアウトを済ます。

あとは、道中に点在する
美味いモノを買い込んで、
帰宅するだけ・・・。

そのはずだった。

ところが、つい先ほどまで
快晴無風の状態だったのに、
上空には雲が浮かび、
早いスピードで頭上を通り過ぎていく。

さらに、南西から吹き付ける風は
どんどんと勢いを増し、
まさに天候が急変。

そんな変化を感じ取ってしまった以上、
もはや湧き上がる下心を
抑え込む術など持ち合わせていない。

荷物を積み込むと、
帰る方向とは真逆に位置する
フィールドへと向かってハンドルを切った。

フィールドに到着すると、
明らかに早朝とは雰囲気が一変していた。

強い風の影響で水面は波立ち、
濁りも適度に発生している。

さらに、足早に通り過ぎる雲が
頭上にかかったその一瞬、
ローライトコンディションが
何とも言えない雰囲気を
フィールドに醸し出していたのだ。

とは言え、時間は11:00過ぎたところ。

イトウのお食事タイムは
とっくに終了しているはずだし、
過度な期待はしない方がイイ。

そんな心の余裕もあって、
河畔に自生している
ハクサンチドリの花に目が留まる。

北緯45°線を超えると、
平地でも可憐な高山植物を
普通に見ることができるのだ。

心の汚れをきれいに洗い流せたので、
ここから、肩の力を抜きつつも、
ここぞというポイントを
丁寧に撃っていく。

少し下流に移動すると、
強風がイイ塩梅で
岸際に打ち付けている
ピンスポットを発見した。

ここは、前日に
ボイルを確認した場所でもある。

少しの緊張感を持って、
ルアーをソフトに撃ち込む。

ぽっちゃーん。

カスッ・・・

ん・・・!?

ヌゥーーーーー、ワッシャーン!!

かすかな前アタリの直後、
ヒットしたイトウが
すぐ目の前で大きく首を振る。

ヨシ!

すぐに、大したサイズではないことが
わかったけれど、
ここでヒットに持ち込めたことが
何よりうれしい。

そこから、イトウの思わぬ抵抗に
少しだけ手こずった。

けれど、
ほどなくして、無事にネットイン。

キャッチしたのは、
83cmのオスのイトウであった。

きっと彼も、つい最近まで
上流で産卵行動に参加していたのだろう。

よく見ると、真新しいバトルの痕跡が
体中に残されている。

ほのかに赤色が残る体側は、
陽の光を浴びて、美しく輝く。

体力が落ちている様子は
全く窺えなかったけれど、
いつも以上に時間をかけて回復を図ってから
そっとリリース。

思いっきり水を引っ掛けながら、
やや濁りの入った水の中へ
元気に帰っていった。

もう、これで満足。

完全にそんな気分だったけれど、
あともう1カ所だけ、
どうしても撃っておきたい
スポットがあった。

かなり迷ったあげく、
やっぱりそのスポットを撃ってから
帰ることを決めた。

そう、先ほどのイトウとのファイト中、
大きな水柱が上がるのを
偶然、目にしてしまっていたのだ。

ポイントに着くと、
そこには静けさが漂っていた。

「もう、お留守かな?」

そんな想いで水中に目を凝らしていると、
大きな影が足元を左から右へと横切る。

「やっぱりいたか」

けれど、そうやすやすと
口を使うはずはないだろう。

ワンキャスト・・・

ツーキャスト・・・

予想どおり、何の反応もない。

ここから、さまざまな方法で
ルアーに命を吹き込んでみる。

およそ10とおりくらいだけど、
ありったけのメソッドを
自分の引き出しの奥の方から
引っ張り出しては、チャレンジを続ける。

けれど、やっぱり反応はない。

「これで最後」とばかりに、
弱ったトンギョを意識して、
繊細なアクションを加える。

ヌーーーーー

ブッウォ~ン、ブッウォ~ン・・・

首を激しく横に振る
イトウからのシグナルが
ダイレクトに手元に伝わってくる。

しかも、かなりのスローピッチ。
そして、ストロークは大きい。

まだ姿は見えないけれど、
間違いなく大型のイトウのそれ。

心臓の高鳴る音が聞こえてくるほどの
緊張の瞬間は、不意に訪れた。

もちろん、
あきらめていたわけではなかったけれど、
やや意表を突かれたのは事実。

強烈な首振りに耐えながら、
一旦、心を落ち着けて、
少しだけ手動でドラグを出して、
首振りから疾走へとヤツを誘う。

幸い、こちらの思惑どおり、
強烈な首振りは止まり、
ヤツは疾走を開始した。

ただそれは、疾走というよりも
もはや大爆走。

とりあえずやりたい放題やらせておいて、
息つく瞬間を待つ。

それまで悲鳴を上げていたドラグの音が
少しずつ穏やかになってゆく。

今度は、こちらが仕掛ける番だ。

休む間を与えることなく、
一気に間合いを詰める。

いつでもランディング可能なところまで
一旦寄せておいて、
あえてそこで、最後の抵抗を誘発。

動きが止まった次の瞬間、
間髪入れず一気に引き寄せ、
ネットの中へと誘導することに成功した。

105cm。

回復のかなり進んだ、
春としては十分なコンディションの
メスのイトウだった。

このサイズになると、
ファイトも風格もひと味違う。

あいにく、上手に撮影できる場所が
近くになかったので、
リアルな雰囲気を
しっかりと伝えられないのが、残念!

それでも、ガンバって撮影した
いくつかのカットから、
その片鱗をうかがい知ることは
できるかもしれない。

このイトウ、
水中で回復を図っているときに
ベイトを何尾も吐き出した。

よく見ると、そのすべてがトンギョ。

ウグイやサケ稚魚、シラウオなど
辺りには、ほかの魚種もたくさんいるのに
トンギョだけを偏食していた。

実は、トンギョを偏食しているイトウを
ルアーで釣るのが最も難しい。

だから、大きさだけではない
別の意味での価値も実感しつつ、
ゆっくりと丁寧にリリース。

そのイトウは、
大きな尾びれを翻して、
悠々と流れの中に消えていった。

遠征3日目、その直前まで
夢の続きがあるなんて、
まるで想像もできなかった。

前日までの4尾は、
自分の中では、ある意味、
春シーズンのセオリーに近い形で、
ヒットに持ち込むことができていた。

ただ、この日の2尾は、
確信的に釣ったと言える魚ではない。

日差しが真上から注ぐ日中に、
しかも2尾も続けてヒットするなんて、
さすがに想定外。

いかにフィールドの状況が
良い方向に激変していたにしても、
「ラッキーパンチが1回当たれば、
それこそ儲けもの」くらいに
実のところ私は考えていたのだ。

勝手知ったるフィールドで、
勝手知ったる時期にエントリーしても、
こんな想定外は起こるもの。

別の視点から見れば、
私なんぞが考えているよりも、
もっともっと奥深い世界があるんだと
改めて痛感させられる
出来事であったとも言える。

けれど、悔しかったというよりは、
いっそうワクワク感が増したと言った方が
その時の感情を
的確に言い当てていると思う。

そんな想定外があるからこそ、
釣りはまた愉しい!

「またこんな感覚を、味わいたいな。」

そうは思っているけれど、
春シーズンのイトウ釣りに関しては、
ピークがことのほか短い。

そんなブログを公開したその瞬間、
私は、然別湖畔に立っている。

う~ん、この時期ばかりは、
できることなら、
3つくらいカラダが欲しいぞ~(笑)

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