(前回からつづく)
晩秋の2ショット撮影に成功し、
意気揚々と向かった次の川もまた、
とても健全な姿で
僕のことを迎えてくれた。
水量こそ少ないものの、
トラウトが棲むのに必要な環境は
十分すぎるほど整っている。
そして、ここでは、
川の規模に似つかわしくない
50cmを超えるサイズの
回復系アメマスがヒット。
いやはや、
大自然の懐の深さには
いつもながら
本当に驚かされるものである。
さらにその次の川では、
一尾を絞り出すのに
ちょいと苦労させられた。
倒木の下に魚影は見えるのに
なぜか、口を使おうとしないのだ。
もしかすると、
まだ、産卵を終えていない
魚たちなのかも。
そんな疑念もあったので、
フレッシュな魚が
潜んでいそうなスポットを
集中的に攻めてみる。
すると、ここで
ようやく45cmクラスをキャッチ。
最初の頃こそ、
「一尾釣ったら移動」だったはずなのに
いつのまにやら
「一尾釣るまでは移動NG」へと
ルールが勝手に
置き換わってしまったらしい。
そうこうしているうちに、
さすがにいい時間になってきた。
クマさんが
活発に動き始めるよりも前に
確実に竿を納めなければならない。
ということで、
ここが最後の川。
そう決めて入った川は、
かつて、行き当たりばったりで
エントリーした
経験のある川であった。
基本的には、
さして渓相が良い川でもないから、
目立つスポットだけを
ポンポンと叩きながら
テンポ重視で攻めていく。
けれども、
魚からの反応は得られない。
そうこうしているうちに、
「今日はここまで」と
決めていたポイントへと
あっという間に
到達してしまったのである。
そこは、その気になれば
簡単に攻め切れてしまう程度の場所。
ただ、川の規模からすれば、
それなりの大場所とも呼べる
魅力的なスポットではあった。
それはさておき、
この日は、
ここまでに十分すぎるほど、
魚たちに楽しませてもらった。
だから、もう
肩ひじを張る必要はない。
なんか釣れたらラッキー。
そんな気持ちで、
お気に入りの
フローティングミノーを
キャストしてみる。
すると…
ミノーの後ろを追尾する
真っ黒な大きな影…
ギュ~~~ン!
その影が大きく身を翻すと同時に、
ショートゲーム用のロッドが
大きく弓のようにしなったのだ。
20年以上も前に
小渓流用として開発された
感度重視のスマートなロッドに
4ポンドのナイロンライン。
まあ、冷静に考えて
明らかにこちらの分が悪い。
ただ幸いだったのは、
ポイントの規模が小さかったこと。
かつて、長野県の犀川で
これとまったく同じタックルに
60cmオーバーのニジマスを
ヒットさせてしまった時と比べれば、
ずいぶんとマシな状況ではあった。
ここからはじまった、
大捕り物劇。
一進一退を繰り返しながら、
勝負のタイミングをうかがう。
ヒットから、およそ5分。
ついに、こちらに勝機が訪れた。
力強い突っ込みを交わし
ロッドの角度を変えて
こちらからプレッシャーをかけると
老獪なイケメンは
力なく水面から顔を出したのだ。
エイ!
その恍惚な表情に
若干動揺しながらも、
間髪入れずにネットイン。
日高の小渓流で巻き起こった
ささやかな大捕り物劇は
ようやくここに
幕を下ろしたのである。
サイズにして68cm。
北海道のアメマスとしては、
決して巨大なサイズではないけれど、
このタックルには
かなり優しくないボリューム感。
にしても、
この迫力満点の顔立ちには
つい、うっとり。
若かりし頃に負ったのであろう
大きな傷跡も、
厳しい自然環境の中、
ここまで必死に耐え抜いてきたことを
十分に忍ばせるものだった。
さらにこの魚、
僕の長い釣り人生の中で
はじめて出逢う魚だったのだ。
もちろんそれは、
サイズの話なんかじゃない。
まずひとつ目の特徴として、
胸ビレの縁取りに注目してほしい。
なんと、
ビビッドな黄色のコーデで
小粋にオシャレを
決め込んでいたのである。
胸ビレをアップで撮影すると、
こんな感じ。
北海道のフィールドを歩いていれば、
ヒレ全体が黄色をした
イエローフィンアメマスに
出逢うことはあるけれど、
本来、白であるはずのところが
こんなビビッドな黄色になるなんて…
さすがに、
ここまで奇妙な発色の魚には
僕は、今まで出逢ったことがない。
ひとつ目は、
そんな意味での驚きであった。
そして、このアメマスには、
もうひとつ、どうしても
注目しておきたいポイントがあった。
それは、
サーモンピンクに着色された
斑点があることだ。
上から体側を撮影した画像で観ると
すぐにその異様さに気づくと思う。
側線の近くのいくつかの斑紋に
サーモンピンクの色が
くっきりと浮き出ているのだ。
ちなみに僕が、
着色斑があるように見える
アメマスをキャッチしたのは
実は、これがはじめてではない。
秋シーズンに
たくさんのアメマスを釣っていれば、
ごく少数ではあるが、
その中に着色斑があるように見える
個体が混じるのは事実。
少なくない数のアングラーが
そのようなアメマスを
おそらく、一度くらいは
目にしたことが
あるのではないだろうか。
だが、今回の個体には、
僕が今まで出逢ってきた
それらのアメマスとは
明らかに異なる特徴があった。
それは、側線まわりに数個だけ
はっきりそれとわかる
着色斑が点在していること。
念のため、
着色斑をアップで撮影した画像も
掲載しておこうと思う。
この画像を見れば、一目瞭然。
どこからどう見ても
着色斑に違いないのである。
ちなみに、
僕が今までに出逢った
着色斑があるように見えるアメマスは
どれも、側線より下の斑紋が
おしなべて
ピンク色に染まっていた。
アメマスの象徴ともいえる
白い斑紋の上から、
婚姻色がうっすらと
魚体の側面に乗っかって、
まるで、ピンク色の
斑紋があるように見える感じ。
こんなふうに表現すると、
なんとなく伝わるだろうか。
だから、個人的には、
それが着色斑だと言い切ることには
ちょっとばかり抵抗があったし、
キレイはキレイでも、
それが特段に貴重な魚であるようには
どうしても思えなかったのだ。
だが、今回の魚は違う。
今度は、背ビレの後ろ側の
斜め上方向から撮った画像で
確認してもらいたい。
この画像でも、
周囲に点在する白色斑とは
はっきり異なる色をした
独特の斑紋があることを確認できる。
さらによく見ると、
斑紋ごとにはっきりと発色が違っていて、
婚姻色でしばしばみられるような
グラデーション的な雰囲気を
微塵も感じさせないのである。
そうは言いつつ、
あれこれと力説してみたものの、
この魚が持つ学術的な価値が
いかほどのものなのかまで
僕にうかがい知ることはできない。
でも、僕にとっては、
なかなか出逢うことができない
貴重な個体であったのは
紛れもない事実。
だから、
完全な自己満足でいいのだ。
たった一日という
短い時間の中で、
心躍るような
さまざまなシーンに出逢えた
今回の日帰り釣行。
いつもと
同じことを繰り返すだけでは、
未来永劫、知らないままで
終わってしまうことが
この世の中にはたくさんある。
やっぱり今回も、
北海道のフィールドには、
いろんなことを教えてもらった。
やっぱりスゲーよ、
北の大地を彩る大自然の営みは!
次回はいつになるかわからないけど、
これからも積極的に
未知なるフィールドを開拓していこう。
そんな思いを強くした
今回のワンデイトリップであった。